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「魔法が使えなきゃ物理でぶん殴ればいいだけだもんね」
「僕の鎧は物理攻撃無効の効果があるんだぞ」
「そんなのやってみないと分からないでしょ」
マナがにこりともせずそう言うとカインリルは警戒するように距離をとった。口で何を言っていても実際に何を考えているかわからないと思ったのだろう。
「そんな逃げ腰じゃ、勝てるものも勝てないよっ」
そう言いながらマナは再びカインリルに急接近する。
「<発火>、<発火>、<発火>」
対するカインリルはマナの進路を妨害するように魔法攻撃を繰り出しながら3次元を縦横に駆け回った。
2人の戦いは典型的な空中戦の様相を呈してきて、どちらが先に相手の死角に入って隙をつくことができるかに勝負は委ねられた。魔法で進路を塞いで視覚を遮り、複雑な動きで相手の追随を困難にして、さらに平衡感覚も混乱させる。そうして生まれる一瞬の隙をひたすら狙っていくのだ。
360度、雨のように魔法を降らせながら急上昇、急降下、急旋回を繰り返すカインリルをぴったりに追いかけて行くマナ。まだ1度も攻撃を繰り出していないのが余計に不気味だった。
と、リズム良く攻撃魔法を繰り出していたカインリルの攻撃が一瞬止んだ。
「これでも避けられるか? <発火>ッ」
カインリルが生み出したのは大きな炎熱の竜巻だった。一瞬の空白は大きな魔法を起動するための溜めだったのだ。その巨大な熱と光は、マナの視界からカインリルを消し去ってしまう。
しかし、まさにその瞬間、俺は竜巻の反対側、カインリルの目の前にいた。魔法が発動するのと同時にマナは俺をカインリルに向かって投げつけていたのだ。
「ピッタヴッッ!!」
「<発火>ッ」
カインリルが叫ぶのとマナが詠唱するのは同時だった。ピッタヴは反応速度の限界で身体を捻り、間一髪で俺の特攻を避け、マナは水の散弾で竜巻を掻き消した。
「勝ったっ」
勝ちの確信に、次の攻撃魔法の印を結びながら思わずカインリルは声を漏らした。
飛行魔法、防御魔法、飛行魔法という切り替えは、飛行制御に不可避な遅延を引き起こすので、これまでのような素早い回避が一瞬できなくなる。
その隙をついてカインリルが攻撃魔法を放てば、マナは飛行で回避できない以上防御魔法を使うしかない。だが、そこで防御魔法を使うということは次の攻撃も飛行で回避できないことを意味している。
つまり、ここから先、カインリルが攻撃魔法を連続で放ち続ければ、マナは飛行魔法を使うことができずに墜落するしかないのだ。
地上でも、そのことに気づいたスタッフが落ちてくるマナを受け止めるためにリング脇に出てきて主審の試合終了の合図がいつ出るかと神経を集中させていた。
闘技場にいた誰もがマナの負けを確信したその時、場内に響き渡ったのは意外にもマナの一言だった。
「<発火>」
しかも、それは攻撃魔法ですらなかったのだ。




