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この発言には、ノルフレドだけではなく、その場にいた学園長までが驚いた。
「し、正気ですか、カインリル」
「あたしからもお願いします、ノルフレド先生、学園長先生」
あたしはカインリルの提案に畳み掛けるように頭を下げた。
「昨日の試合はあたしにとっても不本意な終わり方でした。次、いつ手合わせできるか分かりませんから、今、悔いの残らない試合をしておきたいのです」
「僕も同じ気持ちです。よろしくお願いしますっ」
カインリルもあたしに並んで同じように頭を下げた。公爵子息に頭を下げられたノルフレドは言葉がない。
ノルフレドの立場として、カインリルに危険な試合をこれ以上させるわけにはいかない。もし許可をして再び事故があったら今度は責任を取らないわけにはいかない。しかし、カインリル自身がここまで希望するとそれを無視することも難しい。
それに、暗殺のチャンスがもう一度生まれるというメリットもある。前回の暗殺はかなり用意周到に計画されたものだろうし、毒ガスの噴霧までして成功を確信していたはずのところで失敗したのだ。内心はかなり焦っているに違いない。
ノルフレドの心の振り子はリスクを取る方に傾いたようだ。しばしの沈黙の後、その重い口を開いた。
「分かりました。しかし、ダメージ軽減フィールドは……」
「ダメージ軽減フィールドはなしです」
「カッ、カイン……」
「昨日の試合でピッタヴは実に秒速で戦闘不能にされてしまいました。しかも、激痛針という原始的な小道具で。これは僕が心の中で無意識にダメージ軽減フィールドに頼っているせいです。ここでまたそれに頼った試合に戻ってしまったら、再試合をする意味がありません」
「…………分かった。許可しよう」
「ありがとうございますっ」
「ありがとうございます」
「ということなのですが、よろしいでしょうか、学園長先生」
「私は構いませんよ。早速、再試合の日程を決めましょう」
「よろしくおねがいします」
話はまとまり、あたしとカインリル、それにノルフレドは学園長室を退室しようとした。
「あ、マナさんは少し残っていただけますか?」
「え、あたしですか?」
「ええ。ノルフレド先生とカインリルくんは行ってくださっていいですよ」
「それでは、失礼します」
「失礼します」
ノルフレドとカインリルが去った後、学園長はあたしに近づきながら言った。
「何か、企んでますね」
「えっ?」
「私の知る限り、あなたはああいうところで頭を下げたりするタイプじゃないはずですよ」
「そっ、それは……」
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。詮索しようというつもりじゃないですから。ただひとつだけ忠告をね」
「はい」
「目に見えるものが全てではないこともありますよ」
「えっと、それはどういう?」
「さ、そろそろ授業が始まりますよ。もう行かないと遅刻しちゃうんじゃないですか?」
「あ、本当だ。失礼します」
学園長の言葉も気になったが、これからだと全力でダッシュしないと授業に間違いなく遅刻してしまう。あたしは慌てて学園長室を出ると一目散に駆け出した。
「今回は私が手を下す必要はなさそうですね」
誰もいなくなった部屋の中で学園長は満足そうにぼそりと呟いた。
来週月曜日は私用のため更新をお休みさせて頂きます。次回更新は火曜日の予定です。




