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「この子猫が?」
「そうよ。ヘータとあたしは会話ができるの。それでその話はヘータから聞いたのよ」
「そんな魔法は聞いたことがない」
「世界は広いのよ」
予想したことではあるが、カインリルが使い魔と会話するというところに興味を持ったようだ。
現在、主人と使い魔で言葉を通じるようにする魔法は知られていない。だから、使い魔とのコミュニケーションはペットのしつけと同じく、単純な命令を一つ一つ覚えさせていくことで行われている。さらに低級でしつけすら難しい魔法生物の場合には、直接使い魔を魔法で操ることも行われる。
だけど、あたしとしてはこれ以上ヘータの秘密をカインリルに教えてやるつもりはない。ここから先のことを聞かれても適当に誤魔化すだけだ。
「ちょっと待って。そもそも、どうしてノルフレド先生がは飼い葉に毒を入れたの? 直接カインリルさんに危害を加えるんじゃなくて」
カインリルがそれ以上ヘータのことを詮索する前に、ミレイが横から割って入った。
「それは多分ね、ノルフレド先生はあくまで試合で事故を装いたかったからだと思うよ。でも、そのためには試合中に魔法が命中しないと意味がないからね。ペガサスに乗って飛び回るカインリルにあたしが魔法を当てられるか不安だったんじゃない?」
「そういえばノルフレド先生は使い魔なしの試合にずっとこだわってたけど、それもそういう理由だったんだな」
「多分、ダメージ軽減フィールドのことを最初にあなたに吹き込んだのって」
「うん。今から思えばあれもノルフレド先生が最初だった」
「やっぱり」
「じゃあ、警察に言ってノルフレド先生を逮捕してもらおうよ!」
あたしとカインリルの会話で状況証拠が積み重なるのを聞いて、ミレイは勢い込んでそう言ったが、あたしはゆっくりと首を振った。
確かに状況証拠はノルフレド先生が犯人だと示唆しているように見える。だけどそれは大部分推測に過ぎない。
「カインリル、あなたは何か直接的な証拠はあるの?」
「疑いを持った理由はある。国内問題だから詳しいことは言えないけど、残念ながら動機の説明にはなっても決定的な証拠としてはちょっと」
「そうよね。じゃなきゃこんなところでこんな話をしてるはずないよね。でも、証拠がないと警察は難しいね」
ノルフレド先生が鎧に細工をしていたって証拠があれば確実なんだけど、今はそもそも鎧に細工があったっていう証拠も、カインリルの証言以外にはない。
あたしとカインリル、それにミレイはうーんと唸りこんでしまった。
「もう一回、カインリルが襲われればいいんじゃないか?」
下の方から聞こえてきた子猫の声に、あたしはぎょっとした。
「それはダメでしょ」
「なんで?」
「カインリルを囮にするなんて危険だよ」
「なるほど、僕が囮になるのか」
あたしとヘータの会話を聞いて、カインリルまでがそのとんでもないアイデアに興味を示した。カインリルが聞いたのはあたしの声だけだけど。
「ちょっとカインリルまで!」
「そうだよ、危ないよ、カインリルさん」
「でも、うまく行けば確実な証拠が掴める」




