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「んーー、ふわぁぁー。んっ、おはよう」
慌ててヘータを奪い取って腕の中で揺すってやると、気持ちよさそうに伸びをしてとぼけたことを言いやがった。腹が立ったあたしは、おしおきにヘータの尻尾を持って振り回してやった。
「いやー、痛い、痛い。ちょっと、やめて、尻尾。尻尾」
「うるさいっ。心配したじゃないかっ。心配したんぞっ」
「だって、昨日マナは寝て……」
何かヘータが言いかけたが、無視してぎゅっと胸元に抱きしめた。
「よかった。帰ってきて」
「くっ……、くるし……、た……す……」
白目をむきそうになっている子猫の様子にミレイが見かねて止めに入るまでヘータを抱きしめていたが、ようやく落ち着いたあたしは初めてヘータを連れてきた人物と向き合った。
その人物とは、昨日、マナとの試合で重傷を負ったはずのカインリルその人だった。
「おはよう、マナ」
「……生きてたのね」
「僕があなたを置いて死ぬわけないじゃないか」
「一回、死んでみればよかったのに。……痛っ」
あたしがカインリルに対して憎まれ口を叩いた直後に後頭部に衝撃が走った。
「ミレイ、何するのさ」
「さっきまで泣きそうだったくせに、何言ってるのさ、君は」
「な、ちょ、何言ってんのよ」
「大変なことをしたって落ち込んでたじゃない」
「あ、あれは、カインリルは一応お客さんだし、向こうの国では偉い人っぽいし」
「じゃあ、マナは相手が偉いひとじゃなかったら死んでもいいっていうの?」
「ち、違うけど……」
「だったら、そうじゃないでしょ」
ミレイに言われて反省したあたしは、もう一度カインリルに向き直る。
「昨日はごめんなさい」
「いや、あの位の攻撃を受け切れなかったのは完全に僕の落ち度だ。謝るのは僕の方だよ。本当に申し訳ない」
「……キザったらしい……」
「は?」
「いえ、何でもないわ」
カインリルはいちいちキザったらしくて変なやつだけど、バドアスと同じで、ただ自分の価値観に真っ直ぐなだけで人に害をなしたりするような悪いやつじゃないんだよな。そんなことはもうとっくに分かってたんだけど、認められなかったのはあたしのせいなのか。
「昨日の試合のことだけど、僕の負けだったから……」
「ちょっと待って。あの試合は無効でしょ。そうよね?」
「…………」
あたしの問いかけに、カインリルはすぐには答えなかった。しかし、その目に映る逡巡は、逆にあたしの推測に確信を与えるものでしかなかった。




