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「え?」
言われて頬を手でこすってみると、水の感触があった。
「とにかく食べよ。食べないと頭が働かないよ」
「うん」
ミレイに促されてテーブルに着いて食べたシチューはおいしかった。あたしが引きこもっていたときにもよく食べさせてもらった味だ。
市販のルーにアレンジを加えただけのものだけど、目の前で作るほうが食欲が出るかもしれないと、寮の部屋にわざわざミレイが簡易キッチンを運び込んで組み立てて作っていたのだ。
懐かしい。
「あたし、あの試合の直後から記憶が全くないんだけど、何があったのかな?」
「僕が魔法で眠らせてここまで運んできたんだ。あのままだと君が混乱して何をするか分からなかったから」
「そうなんだ。ごめんね」
「カインリルにはすぐに治療が施されてたから大丈夫だと思う。でも、彼はさすがに話せる状態じゃなかったし、君も僕が連れ出しちゃったから、今日は呼び出されて事情を聞かれると思うよ」
あの時、カインリルはちゃんとあたしの放った1つ目の魔法に反応して、鎧の魔法を発動させようとした。いや、あたしには発動させたように見えたのだ。でも、実際には発動しなかった。
「そのとき、誰か鎧のことについて何か言ってなかった?」
「鎧? ううん。誰も何も」
誰も気づかなかったのか、気づいていたけどそれどころじゃなかったのか、それともわざと……。
そこまで考えてあたしは思考を一旦中断した。この先は迂闊なことで口にするとまずいことになりかねない。あたしの考えが当たってても外れてても。
ここにヘータがいたらあいつもきっと同じことを考えているのにと思って、ヘータがいなくなったことを思い出し、また不安になってきて思わず首を振った。
「どうしたの?」
「何でもない」
と、ちょうどその時、玄関の方で何か音がした。
「僕が出てくるよ」
そう言ってあたしを制してミレイが出ていき、しばらくすると思いもかけない人を連れて帰ってきた。
「ヘータッ!!」
ミレイの隣に立っていたその人の腕の中には目を閉じたまま身じろぎもしない子猫の姿があった。
「ヘータ、どうしたの? ヘータ」




