09
俺は部屋の中をぐるりと眺めてみたがそれらしいものは見当たらなかった。まあ、病室に置くようなものではないから別の部屋に置いてあるんだろう。それに置いてあったとしても仕掛けは回収済みの可能性が高いしな。
後は待つだけか……。
俺の心配が正しければ、犯人は今晩のうちにカインリルを始末しようとするはずだ。そうすれば、死因を試合での事故に押しつけることができる。
そうなれば犯人は自分に追及の手が伸びるのを避けられるだけでなく、トルニリキア学園の信用を貶めることも、ハンセタール王国とクプーティマ王国の外交問題を引き起こすこともできる。
むしろ本命は後の方なのかもしれないが。
いずれにせよ、犯人が本気なら今夜のうちに何か動きがあるはずだ。明日になってカインリルの元気な姿が目撃されてしまうと、事故との因果関係が曖昧になってしまう。
…………
………………
待つだけというのは退屈だ。だけど、監視だから瞑想しているわけにもいかない。いくら夜型の猫でも、じっとしていれば眠くもなってくるというものだ。
屋敷の中は静かだった。カインリルがこんなことになってさすがに騒げる気分ではないんだろう。しかし、逆にこれだけ静かなら近づいてくる足音で犯人の接近に気づくはずだ。俺は聴覚に最大の注意を払い始めた。’
…………
………………
なんかおかしいな。見た目はさっきと特に変わっていないように見えるけど、何か違和感が…………、
毒か!?
しまった。どこかの隙間から毒ガスを入れられたみたいだ。このままガスを吸い続けるとカインリルだけじゃなく俺も危ない。……、仕方ない。多分、この暗い部屋の中なら誰にも見られないだろう。
「<発火>」
俺はこれ以上毒ガスを吸わないように体の周りに風の壁を作って急いで窓を開けた。すぐに換気されて部屋の中の空気が正常に戻っていく。
カインリルは?
窓枠からベッドへと飛び移って首元へと急いで駆け寄ると、すぐに呼吸音を脈を見た。
くっ。予想以上に容態が悪いな。急性の神経毒みたいだから、すぐに治療しないと命に関わる。
俺の体調に比べてカインリルの様子はより深刻なようだった。多分、俺の場所の方が部屋の端の方だった分、毒ガスの濃度が薄かったのだろう。
「<発火>」
部屋の中は危険だと考えた俺は、カインリルの体を魔法で浮かせて窓から外へと脱出した。最後に外から窓を締めるのを忘れずに。
ひとまず人目につかない場所に行かないと。
カインリルの姿が消えたことに気づかれると捜索されることも十分にありえる。そうなったら目立つところでうろうろしているのは危険だ。しかし、カインリルの容態は悪く、遠くまで行っている余裕はない。
とにかく朝まで隠れられればカインリルの治療も終わるはずだ。それまで隠れていられれば……。




