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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
親善試合<後編>
57/130

07

 初等部1年のころ、ミレイは周囲に交わるのに苦労していた。それは習慣の問題だったり言葉の問題だったり。ミレイの母国はクプーティマからかなり離れた小国で、文化的にも辺境地域だったのだ。


 今では方言のほとんどはもう使わなくなってしまったが、ミレイが自分のことを「僕」と呼ぶのは未だに残るその方言の残滓だ。


 一方、その頃からマナは才能が開花していて、すでに同級生とは一線を画した存在だった。しかも、今と違って人を寄せ付けない雰囲気はなく、明るい性格で常にグループの中心人物だった。


 当初、ミレイがマナを遠くから眺めるだけだった関係が大きく変わったのは、あるクラスのイベントにマナがミレイを強引に誘った時。以来、マナはミレイを何かにつけて誘うようになり、ミレイもマナと行動を共にすることが多くなった。


 1年も経つ頃には、マナとミレイは誰もが認める親友になっていたのだが、そんなミレイでも入り込めないほどマナの心の奥に入り込んでいた少年が1人だけいた。


 「その人はね、ヘータくんって言う名前だったんだよ。驚いた?」


 ミレイは何か反応を期待するように俺の方を覗き込んだが、残念ながら何を言っているのかさっぱり分からない。仕方ないのでとりあえず「にゃあ」とだけ言っておくと、ミレイは満足したらしく、また話を再開した。


 彼の名は、ヘータ=プラー=アルセイ。ミドルネームから分かる通り、マナと同じプラー寮の学生で、マナとミレイの同級生だ。さらに、マナにとっては寮の部屋が隣接しているお隣同士でもある。


 マナ以上の才能に恵まれた文字通りの天才で、初等部に通っている理由が分からないほどの傑物だった。


 そんなヘータだったのだが、マナに言わせると、

 

 「あれは敵よ。敵。それ以外の何者でもないわ」


 という答えしか帰ってこないほどに、マナにとって対抗意識を煽られる相手だった。しかし、彼女にとってはただのライバルというだけの存在ではなかった。


 模範的な優等生だったマナとは対照的に、ヘータはすぐに授業をサボってどこかに行ってしまったり、クラスのイベントをすっぽかしたりして、周囲の反感を買っていたのだが、その度にマナはヘータの弁護をしたり、代わりに謝罪したりするのだ。


 そんなだから、年頃になって2人の仲についてあれこれ噂をする奴が出てくるのは自然なことだった。


 「初等部4年生の時に、ヘータくんを数人で囲んでマナのことでからかってる男子がいてね、そういうときのヘータくんはたいてい蚊に刺されたような素振りも見せないで無視してるんだけど、たまたまそこをマナが通りかかって激怒してね」


 ヘータををからっていた少年たちに向けていきなり魔法をぶっ放したのだった。それは普段のマナからは想像できないほどの取り乱しぶりで、それ以来その2人のことは触れてはいけないタブーとなったのだ。


 「要は、マナはヘータくんのことが好きだったのよ」


 そんな2人は実力的に釣り合う相手もいないということで、授業でも組になることが多くなって、課題作成のために放課後2人で実習室にいることが多くなっていた。さらに2人は授業の範囲を超えて図書館などで調べた新しい魔法を自発的に実験するようにもなっていたのだ。


 事件が起きたのも、2人がそんなふうに実習室で何かの実験をしている時だった。


 当時、マナたちは初等部5年の冬。秋学期が終って冬休みに入る直前だった。


 その日、ミレイは図書館で勉強をしていた。どんどん先に進んで行くマナとのギャップを少しでも解消するため、あるいはこれ以上離されてしまわないために、放課後は図書館で勉強するのが日課だったからだ。


 突然、ドーンという音と振動があって外を見たミレイは、実習棟のほうで煙が上がっているのを見た。


 ミレイは、その日マナとヘータが実習室にいることを知っていたので、心配になって駈けつけてみると、実習棟は半壊していて、マナは気を失った状態で救出されて地面に横たわっていた。


 そして、ヘータはもはや原形を留めていない実習室の中で、身体の一部が見つかったのみだった。恐らく爆発に至近距離で巻き込まれてしまったのだろうと、事後の事故調査で結論づけられた。

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