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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
親善試合<後編>
55/130

05

 「どういうこととはどういうことです?」


 主審は怒りの形相をしたノルフレドに戸惑いの表情を浮かべてそう答えた。


 「トルニリキア学園の学生はダメージ軽減フィールドを使わない試合に普段から慣れているから手加減の仕方を知っている。大怪我を負うような事故は起こらないと聞かされていました。だから、この試合はダメージ軽減フィールドなしの真剣勝負にしたいという相談があった時、あえて反対はしなかったのです。しかし、最後の攻撃、あれは誰が見てもやりすぎではないですかっ!!」

 「そ、それは……」

 「あなた方、教官はこの学園の学生に一体何を教えているんですかっ。カインリルはハンセタール王国の公爵家の子息で、次期公爵と目される方なのですよ。このような事態でカインリルに何かあった時には、ハンセタール王国とクプーティマ王国の間の国際問題に発展する可能性もあるんですよ。わかっているんですか」

 「もちろん……、しかし……」


 主審を務めていたのはトルニリキア学園の高等部の教官で、そういう意味では教育内容に多少なりとも責任があるといえる立場ではあったが、さすがに国際問題の責任までとれる立場では当然なかった。


 しかし、ノルフレドは相手が責任をとれる立場かどうかなんて微塵も気にしている様子はなかった。とにかく、謝罪も反論を聞くつもりなどないようで、ただ言うべきことをまくし立てることしか頭にない様子だった。


 「あなたの意見を聞きたいのではありません。そもそも、あなたが責任をとってどうにかなるような立場の方じゃないんですよ。後で学園長のところに話に行くので時間を空けておくように伝えておいてください」

 「あ、どこに……」

 「宿舎に戻ります。こんなところにいつまでもカインリルを置いておくわけにはいきませんから」


 それだけ言うと助力を申し出る学園側のスタッフを無視してカインリルを連れ去ってしまった。


 そのノルフレドと学園スタッフのやりとりを片目に見ながら、俺はさっきの事故について考えていた。


 あの時、カインリルは確かに鎧の防御魔法を起動するアクションをとっていて、そのタイミングも間違ってはいなかったはずだった。なのに実際には魔法は起動せず、事故は起きた。これはどういうことなのか?


 カインリルがミスをした。それはありえるが可能性は低い。見た目での違和感はなかったし、習熟度も高くこれまでミスした話も聞いていない。


 鎧に何らかの問題があった。こちらの方が納得がいく。しかしなぜ? 整備不良? あれだけ気合いを入れていた試合でそんなことがあるだろうか。だとしたら……


 「先生」


 俺の思考はミレイが発した言葉で中断させられた。気がつくとミレイはリングに上がっていて、マナのそばにいた。


 そして、俺はミレイの言葉が理解できなくなっていることに気がついた。


 マナ、気を失っている?


 俺が人間の言葉を理解できるのは、契約の効果によってマナの意識の一部が自動的に聞こえた言葉を翻訳して俺に教えてくれているからなので、マナがどこかに行ってしまったり意識を失ったりすると翻訳が受け取れなくなって意味が理解できなくなる。


 マナは目の前でミレイの側に横たわっているので、人間語が理解できないということはマナの意識がないということだ。


 俺は慌ててマナの側に駆け寄った。ミレイはさっきから主審の先生と話しているようだが、何を話しているか分からないので無視して倒れているマナの様子を探った。


 これは魔法で眠らされてる。いつの間に、誰が?


 マナにこの手の精神作用系の魔法をかけるのは簡単なことではない。魔力に敏感なマナは掛けようとした瞬間に気づいてしまうし、そうすればマナの反応から俺も間違いなく気づくはずだ。マナに悟られないように魔法を掛けられるほどの手練てだれは俺の知っている中にはいない。


 そうやってマナの隣で考え込んでいると、突然ミレイが眠ったままのマナを背負って歩き始めた。どうやら主審との話は終わったようだ。俺は思考を中断して、背負われたマナのさらにその肩に飛び乗ってついていくことにした。そうしないと会場に集まった群衆の中でマナを見失いそうだったのだ。

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