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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
親善試合<後編>
53/130

03

 「<発火(レムス)>、<発火(レムス)>!」

 「<発火(レムス)>、<発火(レムス)>、<発火(レムス)>、<発火(レムス)>ッ」


 そこから先は魔法の速撃ち合戦だった。攻撃の手数は両者ほぼ同数だが、詠唱の数はマナの方が倍近い。カインリルの防御魔法は鎧の魔法陣による半自動的な起動なので、詠唱が不要なためだ。


 カインリルの戦闘スタイルはピッタヴを失ってもやはりシンプルだった。右手を攻撃魔法、左手を防御魔法に特化して、左手では属性の異なる2種類の魔法の印のみを結んでいた。これで防御魔法は鎧のも含めて3属性となり、2属性攻撃魔法までは完全にカバーできる。


 右手の攻撃魔法については、印を隠すつもりも偽装するつもりもなく、シンプルに撃ちまくるだけなので連射速度はいいものの、簡単に属性や効果を読み取ることができた。しかし、防御をほとんど考えなくてもいいスタイルは強力で、相手に考える隙を与えずに攻撃を続けることでその欠点を補っているようだ。


 「なかなか厄介そうな相手じゃん」


 もう今日のノルマを果たした俺は、リングからうっかり落ちて失格にならないように、端から少し場所を空けて香箱座りで高みの見物を決め込んでいた。


 たしかにカインリルは口だけのことはある。


 鎧は確かにチート風味の防御力だが、片手をペガサスの手綱に取られる前提ならばこういう防具を使うのは自然かもしれない。それに付け焼刃でなく十分に使い慣れていることは鎧と結印の防御魔法の使い分けが洗練されていることからもわかる。


 攻撃サイドも高所から魔法を雨のように降らすのが目的なら、偽装にこだわるよりも連射を重視して単純な結印で起動の早い魔法を少ない溜めで放てるように工夫するほうが理にかなっているともいえる。


 足であるペガサスを潰されていて本来のスタイルではないにもかかわらずこれだけ戦えるというのは、度胸も機転も申し分ないといってもいいんじゃないか。普通の相手ならまずこの連射を支え切れずにあっけなく負けてしまうに違いない。


 「ま、でも、マナの相手にはならないか」


 とはいえ、いくらカインリルの手数が多いといっても、所詮、それは普通の魔法使いを相手にした場合のこと。マナとヘータは日頃からこれより速い魔法の応酬をやりあっている。しかも、結印の偽装込みで。カインリル程度の連射ではマナの防御を破ることはまず無理だ。


 ただ、それはマナが負けることはないというだけで、勝つためにはもう一歩足りない。あの鉄壁の鎧の防御をなんとかして破らなくては、結局時間切れで引き分けになるだけだ。


 「さてと、ここからどうやって仕掛けるつもりかな」


 突くべき隙は防御魔法の切り替えのところだ。カインリルは鎧の防御が土属性だから、土属性の攻撃魔法が使われた時にだけ結印で防御しなければならない。しかし、結印での魔法は鎧に比べて起動に時間がかかるため、属性の見極めはある程度余裕を持っておく必要がある。


 もっともそれ自体は誰が相手でも同じことなのだが、カインリルの場合、極力鎧に防御を頼ることで攻撃の手数を稼ごうとする癖があるので、それを逆手に取ることができるかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、マナは少しずつカインリルとの間合いを詰めて圧力をかけていた。防御魔法の起動にタイムラグがある以上、間合いが詰まるということは防御魔法の起動に余裕が少なくなるということだ。


 「くっ」


 じりじり詰まる間合いになんとか耐えていたカインリルだが、だんだん表情に焦りの色が見え始めていた。


 「だめだね、こんなくらいで焦ってちゃ」


 対するマナは余裕そうだ。カインリルの焦りをものともせずさらに少しずつ近づいていく。


 とうとうカインリルが耐えられなくなって片足を一歩引いた。これ以上近づくと防御が間に合わなくなると思ったのだろう。


 しかし、後から振り返るとその一歩がカインリルの運命を決めたのだった。

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