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「僕のことはいいんだよ。今はマナのことだよ」
「あたしが何よ」
「僕は、カインリルさんは素敵な人だと思うな。なのに、なんでマナは彼のことをそんなに邪険に扱うの?」
「あれ? ミレイの本命は『シシーくん』じゃなかったの?」
「僕はまじめに言ってるんだよ」
話をそらそうとするマナに対して、ミレイははぐらかされる気はないという風にマナを見つめた。ようやく観念したらしく、マナは少し真面目な表情で口を開く。
「あたし、前に言ったじゃない。あたしより弱い人は嫌だって」
「僕、強い弱いって、試合で勝った負けたってだけじゃないと思うんだよ」
「あたしもそう思うよ」
「じゃあ、カインリルさんはなんでダメなの? 総合的に見たらすごく立派な人だと思うんだけど」
「あんなの、なんにも苦労を知らないお坊ちゃんが、環境と才能の上に胡座をかいてるだけじゃない」
「……」
「ん?」
「ちょ、ちょっと、マナ……」
ミレイが突然驚いた顔でマナの後ろを見ているのを見て、マナは不思議そうな顔をした。
「僕ってそんなに情けなく見えるのかな?」
背後から突然聞こえが声に驚いたマナが振り返ると、そこに立っているのはカインリル本人だった。っていうか、もっと早く気づけよ。ちょっとたるんでるんじゃないのか?
「……盗み聞きなんていい性格してるわね」
「ご、誤解だよ。僕はたまたまお昼を食べようと思って来たら、マナがいるのを見かけたから」
「それで、ちょっと後ろに立って話を聞いてみたの?」
「たまたま最後のところだけ聞こえたんだよ」
「カインリルさんの言ってることは本当だよ。マナが話してる最中に近づいてきたの見たから」
「あっそう。でも、別に全部聞かれててもあたしはよかったけどね」
マナは手をひらひらさせて早く立ち去るように促したが、カインリルは引き下がるつもりはないようだった。
「僕は確かに恵まれた環境にいると思うけど、それに胡座をかいてるつもりなんてないよ。今度の試合でそれを証明してあげる」
「へーぇ、その割にはダメージ軽減フィールドなんて過保護な待遇になんの疑問も抱いてないみたいだけど」
あくまでも凛と背筋を正して優等生らしい態度で宣言するカインリルに対して、マナは見下すような視線を送りながら皮肉のこもった口調で答えた。しかし、これは残念ながらマナが正しい。ダメージ軽減フィールドなんて箱庭みたいなもので本物の戦いには程遠い、と俺も思う。
「練習試合でダメージ軽減フィールドを使うのは当たり前じゃないか。怪我を恐れて力を抑えてたら練習にならないだろう。それに勘違いされたら困るけど、僕は親善試合でダメージ軽減フィールドを使うつもりなんてないよ」
「へえ」
カインリルの突然の宣言に、マナはちょっと驚いたように眉を上げた。
「カインリルさん。マナの言うことなんて気にしなくていいんですよ」
「いえ、ミレイさん、これは前から考えていたことです。僕の本気を伝えるには、あえて危険な環境に身を投じることも大切なんだと思うんです」
「いいのよ、ミレイ。どうせダメージ軽減フィールドなんてなくても、カインリルにはまだ反則っぽい鎧も使い魔も残ってるんだから」
「鎧も使い魔も現実の戦闘で実際に使われるもので、ダメージ軽減フィールドとは違う。それに、あなただって鎧も使い魔も使うんだろう?」
「鎧は着ないわ。重いだけで大した意味なんてないから。使い魔は……、まあ、ちょっと反則気味かもしれないけどね」
ミレイとカインリルは、マナが最後に言った意味深な言葉に首を傾げて俺の方を見た。俺は可愛らしく一言「にゃあ」とだけ鳴いておいた。




