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それにしても、想像以上だったのはカインリルの人気だ。歓迎式典とその後何度か行われた練習試合を通して獲得したのは女性票だけではない。カインリルは男子からも人気があったのだ。
「ほんっと、よくやるよねー」
マナは渡り廊下の窓枠に肘をついて外を眺めていた。外では少年たちがサッカーのミニゲームをして遊んでいた。その中心はカインリルだ。
高等部の事情は直接見たわけではないので新聞を通しての情報だが、最初の方こそ女子人気の高いカインリルに対する鞘当てのようなものがあったらしいのだが、ものの数日も経つうちに主要な男子のグループに受け入れられて、最近では毎日こうやって休み時間にスポーツのミニゲームをやるほどになった。
「あたしには、ああいう能力はないわね」
「羨ましいのか?」
マナがぼそっと呟いた言葉に俺はつい何気なく反応してしまって、余計なことを言ったかなと思ったが、マナは特に気にする様子はないようだった。
「ヘータこそ、ファンを取られて寂しいんじゃないの?」
「まさか。むしろせいせいするぜ」
周りをさり気なく確認しながら話しかけてきたマナに、俺はきっぱりと断言する。あれが羨ましいというやつは実際に体験してみるといいんだ。野獣の目をした少女たちに取り囲まれた時の絶望感と言ったら、まるでグリフォンに睨まれたアカセキレイだよ。
「あっ、ヘータくんっ!」
「げっ」
突然聞き覚えのある声がして俺は大いに戦慄した。マナとの契約による翻訳を介さなくてもこの声の主のことは分かる。いつも俺をしつこく追い回してくる「ファン」の1人だ。
「マ、マナッ、ちょっと隠れさせ……、マナ!?」
あろうことか、マナはいつの間にか姿を消していた。ちょっとぼーっとしている間に先に教室に行ってしまったのだろう。
ファンの少女はにこにことした笑顔を貼り付けたまま、1歩また1歩と間合いを詰めてくる。言葉ではにこやかに何かを俺に話しかけているが、マナがいなくなってしまったので何を言っているのかさっぱりわからず、それが余計に怖い。
「や、や、やめてぇ~」
俺は強化された身体で一目散に逃げ出した。次の教室の場所はわかっているが、慌てて逃げた方向は反対側だった。どうかこの先、これ以上ファンに見つかることがありませんように……。
魔法禁止の身では頼りになるのは逃げ足だけで、しかも怪我をさせるわけにはいかないから捕まってしまったら振りほどくことも難しい。鬼のやたら多い鬼ごっこ兼かくれんぼの果てにたどり着いた教室で受ける授業は、俺にとって貴重な安息の時間だ。だって、さすがに授業中にまで追いかけてくる学生はないから。
お昼、今日もマナはミレイとご飯を食べていた。
マナがプラー寮の出身だと言っていたのに寮生でないミレイといつも一緒の件について前に聞いた時、比較的仲のよかった寮生は全員別のクラスになったし、同じクラスになったミレイとは寮生だったころからも1番の友人だったから、と説明していた。たまにお昼の時にレストランでマナが知り合いらしい少女たちと出会って談笑していることがあるが、あれがきっと寮生なんだろう。
「カインリルさんって、完璧だよね」
ミレイがやたらとバターの匂いのする皿をフォークでつつきながらマナに話しかけた。
「えー?」
「マナはそう思わないの? あれだけ美形な上に勉強も運動も魔法もできて、しかも人望も厚いんだよ」
「んー……」
「シシーくんも言ってたよ。バドアスくんはもうカインリルさんに完全に心酔しきっちゃってるって」
「ふーん。『シシーくん』ね」
「こっ、この間、たまたま会っただけだよ」
「たまたまねー」
「もうっ、マナったら」
どうやら少女2人の話題は男の話のようだ。俺には関係ない話だと思いながら、俺は持参したおにぎりにかぶりつく。マナが買ってくれる昼食は外れしかないので、毎日弁当を持参することにしたのだ。




