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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
親善試合<前編>
43/130

11

 「なっさけない」


 控えのベンチに戻って疲れた様子で座っていたバドアスを訪ねたマナの第1声がそれだった。


 まだ試合が終わった直後だったが、最後の方は手酷く攻撃魔法を受けていたわりに、バドアスはかすり傷程度の怪我しか負っていなかった。一応、試合終了後に学園の医療スタッフの問診を受けてはいたが、特に治療が必要とは判断されなかったようだ。


 これはリングに掛けられたダメージ軽減フィールドの効果によるものだった。賓客を迎えての試合ということで、試合前にリング上にダメージ軽減フィールドの魔法陣を描き、試合中ずっと魔法使いのスタッフが魔法陣を発火させ続けて、選手を怪我から守っていたのだ。


 「うるさい」

 「なさけないものをなさけないって言って何が悪いの? あんな隙だらけの相手、あたしだったら100回戦っても負ける気がしないわよ」

 「そういう口はあいつと1回でも戦ってから叩いてくれ」

 「はぁ。あなたがここで勝てるくらい強かったら、あたしがわざわざ戦わなくてもよかったかもしれないのに」


 マナは大げさにため息をついてカインリルの側のベンチに目をやった。俺もマナを追うようにそちらに視線を向けた。


 カインリルはマナの視線に気づいてこちらを見てキラリと白い歯を見せて笑顔を向けてきた。そのまま投げキッスでもしそうな勢いだ。なんという天然貴公子。自分に向けられた笑顔でないにも関わらずマナの後ろの観客席から黄色い声まで上がる始末。


 「うげ」


 マナが隣で嫌そうなうめき声を漏らしたのを耳に捉えながら、俺は目に映る光景に妙な違和感を感じた。


 何か、この場にそぐわないものが紛れ込んでいるような……


 俺は目に映るあらゆるものに注意を向けて違和感の正体を突き詰めようとした。もし今、俺の目に注目していたサファイア・ブルーの瞳がまんまるく開いたことに気づいたはずだ。


 カインリルはペガサスから降りて愛馬の背中を撫でながらハンセタールの学生たちと談笑を交わしている。使節の学生たちは全員でカインリルの応援に来てベンチで試合を観戦していたのだ。


 その他にベンチにいたのはハンセタールの医療スタッフと引率の教官だった。


 あの教官、たしか名前はノルフレド=ウォンビーとか言ったっけ。何かあるのかな?


 ノルフレドは30過ぎの若い男性の教官で、面倒見のいい教育熱心な教師というのが普段見せている顔で、鍛えられた身体にわりに整った顔つきで年上好みの女子学生を中心に好評価を集めている人物だったのだが、今この場で見せた顔はそれとは随分異なるものだった。


 その場にいる全員がカインリルの快勝を喜ぶ中、彼一人心ここにあらず、何か大きな心配事があってそれ以外のことが考えられないように無表情だった。その上、視線は吸い込まれるようにカインリルへと向けられていて、一瞬たりとも逸らす気配もない。


 誰もそんなノルフレドの異変に気づいたものはいないようだった。皆、今しがた快勝を収めたばかりのカインリルとその使い魔のペガサスに注目していて、ベンチに座る引率の教官のことなど気にもかけていないのだ。


 「ヘータ、行くよ」

 「にゃ」


 しかし、本当にさっきの違和感はこれだったんだろうか。俺の本能は何か見落としがある可能性を示唆している気がするが、それが何なのかまでは判然としない。学生たち、カインリル、使い魔、ノルフレド、医療スタッフ、それに観客……


 「ヘータ!」

 「にゃぁ」


 まあ、いいや。何かあるにしても、ハンセタールの内部事情だ。部外者の俺が何かできるようなことでもないし、そんな必要もない。


 俺はさっきから名前を呼んでいる少女の元へと駆け寄って、ひょいと肩に飛び乗るとそのまま闘技場を後にした。

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