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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
親善試合<前編>
41/130

09

 微妙に噛み合わない会話があたしの心のどこかを微かにえぐる。それが生み出す鈍痛に思わず心が震えるが、あたしはそれを顔に出さないようにしてミレイをじっと見つめた。


 「何が言いたいのよ」

 「アズレント公爵家ってのはさ、ハンセタール王国じゃ名門中の名門なんだよ。しかも現公爵はクプーティマ王国と親交が深い親クプーティマの中心人物として有名で、この学園にだって来たことがある」

 「知ってるわよ」

 「もともとクプーティマとハンセタールは陸続きで歴史を見たら国境地帯で紛争が絶えなかったのを、現公爵が仲裁に入るようになってからはピタっとそれが止んだのよ。そんな公爵家の跡取り息子とマナが結婚したら、クプーティマでもハンセタールでも有名人じゃない。セレブだよ、セレブ」

 「うるさいな。そんな簡単な話じゃないでしょ」

 「人生、そもそも簡単な話なんてないのよ」

 「意味深っぽい発言でごまかそうとしないで」


 言葉だけを聞いているとふざけているようにも聞こえるミレイだが、その表情は意外に真剣でどうにもうまくかわし切れない。


 「だからさ、もう2年も経ったんだよ。そんな簡単な話じゃないのは分かるけどさ、少しは自分を許してもいいんじゃない?」

 「……、だからって、なんであいつなのよ」

 「えー。客観的に考えてあの人よりいい人なんていないじゃない。どんだけ理想が高いのよ」

 「だって、あいつ、あたしより弱いのよ。あたしより強いのは無理でも、せめて同じくらいは強くないと、あたしの隣を許すのはちょっと」

 「じゃあ、僕はどうなるのさ」

 「ミ、ミレイは特別だからいいんだよ」


 それにミレイは生産職だから、とは口には出せなかったけど、多分ミレイのことだからその辺も全部わかって付き合ってくれてるに違いない。


 「でも、それじゃ、カインリルさんの条件はあながち的外れってわけでもないのね」

 「え?」

 「だって、試合に勝てば君より強いことが証明できるからね」

 「そうかもね。でも、そんなことありえないけどね」


 あたしは何の気負いもなくそう答えた。だって、それはありえないから。ソロの時ですら考えられないのに、今はヘータがいるから負けるって状況のイメージすら湧かないよ。


 それでミレイとの話は終わった。カインリルには悪いけど、これでカインリルとの戦いは余計負けられなくなったわけだ。


 いくらカインリルがKYだと言っても、向こうは高等部、マナは中等部なので普通に学園生活を送っている分には顔を合わせることはない。カルネが新聞でカインリルとマナの対戦を煽ってはいるが、いつものことだと無視してしまえば特に変わり映えしない日常だ。


 そんな風に数日は過ぎ去っていった。しかし、このまま試合の日まで全く顔を合わせずに済むかといえばさすがにそういうことはない。それは例えば今日みたいな日があるからだ。


 今日は、カインリルとバドアスの試合があり、別にあたしはバドアスの応援をしに来たわけでもなんでもなく、カインリルの戦い方をヘータに見せておこうと思って観戦に来たのだ。もちろん、あたし自身、2年前に見て以来なのでどう変わったか、伝聞情報だけでなく、一応この目で見ておきたいというのもあったのだけど。


 ところで、この試合はバドアスの方が希望したらしい。より強い奴と戦って自分を高めたいといういかにも真面目で暑苦しい理由なんだそうだ。後、シシーがこっそり言っていたが、あたしとカインリルの試合が決まったことに刺激されたのが本当の理由らしい。


 突然、観客席から歓声が上がった。その中には少女の黄色い声も混じっている。カインリルが登場したのだ。


 カインリルは羽のついた馬に乗っていた。


 「ペガサスか!?」

 「そうよ。アズレント公爵家は天馬ペガサス乗りで知られてるの。全くキザったらしいったらありゃしない」


 あたしは周りに聞かれないようにヘータの耳に口を当てて話しかけた。口元は腕とヘータの耳で隠れているから周りから唇を読まれる心配もない。ヘータは若干くすぐったそうに耳を動かしたが、嫌がらずにされるがままで話を続けた。


 「あんなレアなものよく手に入れるな」

 「公爵家の領地に大陸でも数少ないペガサスの生息地があるのよ。保護獣だから普通は手に入らないけど、領主なら別よね」

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