06
「あっ」
ミレイが不意に小さく可愛い声を上げたので、何事かと視線をこちらに戻すと、その先にバドアスとシシーの姿が見えた。
「うわぁ」
思わず声が漏れてしまったが、それというのもバドアスが真っ直ぐこっちに向かって歩き始めたからだ。あの面倒くさいやつと談笑なんかしていたらおいしいご飯もまずくなる。
あたしは心のなかで、途中で向きを変えて別のところに行きますようにと祈っていたが、そんな気配はなさそうだ。と、シシーがこちらに向かって小さく手を振るのが見えた。えっと、その手は誰に?
ぱっと振り返ると、ちょっと頬を赤くしたミレイが同じように小さく手を振っている。あれ、これって……
「相変わらずその猫を使い魔に連れてるんだな」
「……誰かのおかげで中等部最強の使い魔に認定されたからね」
心に思った疑問をミレイに問いかける前に、近づいてきたバドアスが話しかけてきた。内容は例によってヘータに対する文句だ。
「あっ、あれは僕の指揮がまずかっただけだ。オロンが弱いわけじゃない。大体、オロンはまだ成長途上のウィルムなんだ。来年には間違いなくオロンのほうが強くなってるね」
「ほ。あなたの指揮が悪かったってことは分かったんだ」
「あ、あれだけ惨敗すればさすがに気づくだろ」
「分からないやつはいつまで経っても分からないからね。でもまあ、それなら、多少は見込みがあるってものかな」
「君は僕のことをバカにしてるのか?」
バドアスが怒気を含んだ目であたしを睨んできたが、隣のシシーがやんわりとなだめにかかる。
「まあ、落ち着け、バドアス。そんなことを言ってるけど、君は前の試合の後に『勉強になる試合だった』って感心してたじゃないか」
「うるさい、シシー。それとこれとは話が別だ」
バドアスの注意がシシーに向かった隙に、あたしはミレイを引っ張って少しテーブルから離れたところで耳に口を寄せた。
「ね、ミレイとシシーってどういう関係なの?」
「なっ、何もないよ。友達だよ。友達」
「本当? だって、さっきこっそり手を振ってたし、なんか、ちょっと頬も赤かったし」
「ぜ、全然、本当に何にもないよー」
「怪しい」
「本当だって。本当にまだ何にもないんだからっ」
「まだ……?」
「あ、いや、違うの、えっと……」
しどろもどろになって顔を紅潮させながら否定する様子は、何よりも雄弁にミレイの気持ちを語っていて、あたしの頬はにやにやと緩んで仕方がない。
小学校1年生から友達をやっているけど、ミレイのこんな様子は実のところ初めてかもしれない。てことは、もしかして初恋? そっかー、ミレイにもとうとうねー。でも、シシーはライバル多そうだから頑張らないとねー。
「にゃあっ」
ミレイの初恋に思いを巡らせて脳内お花畑で遊んでいたところに、警戒の色が含まれたヘータの声を聞いてはっと我に返った。
慌てて振り向いてヘータが見つめる方に視線を向けると、今、一番会いたくないやつがにこやかに手を振りながらこっちに向かってきているのが目に入った。
月曜日は祝日のためお休みします。次の更新は火曜日です。




