05
慌てるミレイを尻目に、相変わらず脱力した様子でカインリルに話すマナ。
「あたしたち、ちょっと今忙しいから、もう行くね」
「うん。また、後でゆっくり話そう。積もる話もあることだし」
「別にあたしには話すことなんてないけど?」
「ちょ、ちょっと、マナッ」
そっけなく捨て台詞を行って歩みを進めるマナに、慌てて追いかけるミレイ。カインリルはというと相変わらずにこやかな笑みを浮かべてその後ろ姿に手を振っていた。その少年の表情に、俺はなんだかよく分からない胸のもやもやを感じながら、素早く小道を横切ってマナの後を追いかけたのだった。
先行する2人に追いついたところで、ミレイはマナにさっきの美少年とマナの関係について聞きたそうに何度も話を振っていたが、マナはそれをことごとく無視して教室へ一直線に戻っていった。
それからしばらくして、マナと俺を含む中等部、高等部の全学生はアーリン・ホールへと集結していた。もちろん、ハンセタール王国からの交流使節の歓迎式典のためだ。壇上では使節の学生や教官が順番に自己紹介をしている。
一行は学生が7人、それに引率の教官が1人に専属の医療チームが3人の計11人だった。医療チームは同じく王立プレミュール校の大学に所属する教官1人に大学生2人で、彼らは親善試合での学生や使い魔の治療を担当することになっているが、ついでにトルニリキア学園の大学とも交流する予定になっているらしい。
自己紹介はさすが魔法使いらしく、1人ずつ簡単な魔法で一芸を披露しながらであったため、その前後の退屈な祝辞的なものとは違い、観客である学生たちも楽しんで聞いていた。中でもカインリルの自己紹介は会場全体が大盛り上がりであった。
まず、カインリルの容姿は殊の外端麗だった。それは使節一行の中でおよそトルニリキア学園の高等部、中等部合わせた全体で見ても、好みの問題はあれど、トップ争いをすると誰もが認めるほどであった。
その上、公爵家という肩書き。トルン市の所属するクプーティマ王国は貴族というものが実質的に名誉職となって久しいが、ハンセタール王国は今でも貴族が政治の中心を握っている。そんな中、公爵は王の次、場合によっては王以上の権力を持つことになるわけで、子供っぽい憧れのようなものを刺激するには十分だった。
カインリルが披露したのは簡単な魔法だった。風と水を使って会場全体に雪を降らせたのだ。しかし、年中温暖な上に雨の降らないトルンでは、生まれてから雪を一度も見たことがないものも珍しくなく、突如出現した雪に会場の盛り上がりはピークに達した。
「けっ、キザなやつ」
「あたしも同感だわ」
吐き捨てるように呟いたヘータの言葉に、あたしも声に出して同意した。全く、あいつの態度はことごとく気に食わない。隣ではミレイがきゃぁきゃぁ言いながら手を振っているが、なんでみんなあんなやつにそんなに夢中になるんだろうね。
式典の後は立食パーティーだった。
アーリン・ホールの外は広場になっていて、そこにテーブルが用意されて食べ物や飲み物が並べられ、会場から外に出された学生たちは思い思いに集まって談笑するのだ。もっとも、実際にはお昼ごはんを我慢していた育ち盛りの少年少女、あっという間にサービング・テーブルには長蛇の列ができていた。
「あーっ、マナッ、こっちこっち」
どうにか食事を手に入れたあたしがふらふらと歩いていると、向こうのほうで手を振っている少女が目に映った。
「ミレイ!」
駆け寄ってみるとミレイもすでに食料を確保して、数人用の丸テーブルを1人で占拠していた。
「こっちの方はまだ人が少ないからゆっくりできるよ」
「そうだね」
素早くミレイと別行動を取って食料の確保を優先したことが功を奏して、テーブルが全部埋まる前に落ち着けたようだ。もう少ししたらこの辺も人でいっぱいになるに違いない。
そう言えば使節の人たちもあの列に並んでるのかと思ってきょろきょろとしてみると、どうやら彼らには専用のサービング・テーブルが用意されているらしく、パーティ会場の一角ですでに優雅に談笑をしていた。
「VIP待遇だねー」
ま、お客様だから当然だけどさ。




