03
俺は屋根の上から人間たちの様子を観察しながら、あいつらをどうやって追い出すかということについて思案していた。といっても、どうせやることは1つで力ずくで追い返すだけなのだが。
あじを安全な屋根の上に置いた俺は、足音を殺して人間たちに飛びかかれる位置へと近づいた。黒髪の少女は自分では荷物を持たずに指示をしているだけで、男たちだけが箱を持って家の中と外を往復している。
「にゃっ」
その内の男の1人にタイミングを見計らって飛びかかった俺は、尻尾を首に巻きつけるとぎりぎりと締め付けた。
「くはっ、かっ」
ドスン
頸動脈を圧迫したことで男は十秒足らずで気を失い、力を失った足は体重を支えきれなくなって身体が地面に崩れ落ちた。
「まず1つ」
「なんだ、この猫は」
「にぎゃっ」
間髪をいれず、驚いて振り返った男に飛びついて顔をがりがりとひっかく。
「ぎゃっ、痛っ、痛い痛いっ」
「ふんっ」
男が両手で俺を振りほどこうとしたところを、いち早く飛び去って距離をとる。そして最大級に背中の毛を逆立てて尻尾をぴんと上に向けて全身で威嚇姿勢をとる。「ここは俺の縄張りだ、今すぐここから立ち去れっ」と猫語で叫ぶが人間に通じるはずはなかった。
「フーー、フーーー」
「こんのやろうっ!!」
男の方も負けてはいない。荷台に積んであった何かの道具らしい棒を取り出してきて俺に向けて突き出してきた。どうやらそれを武器にして戦おうというつもりらしい。
「そんなものが利くわけないだろっ」
電光石火で駆け寄る俺の動きに男は全くついてこれず、俺は男が突き出す棒の上を助走をつけて駆け上がってジャンプし、顔の横を通り抜ける瞬間に尻尾を曲げて顎のところに引っ掛けて引き倒した。男は不意を突かれて受け身も取れず、脳震盪を起こして気絶したようだ。
「さて、残りはお前だけだな。悪いことは言わないからさっさとこれを片付けてここから立ち去れよ」
俺はあいかわらず猫語で1人残った少女に通告したが、やはり当然人間に言葉が通じるわけがなかった。まあ、それならそれで実力行使するまでと尻尾を立てて臨戦態勢を強めていく。
あたしは目の前で起きている光景が信じられなかった。子猫が大人の男をあっさりと気絶させていったことにではない。その子猫が明らかに魔力を使って身体強化をしていることにだ。魔法生物には特殊能力を持つものもいるが、それは種に固有の能力であって、ただの猫が身体強化の能力を持っているなんて聞いたことがない。
――しかも、これは、魔法?
魔法を使う猫というのはあたしの知っている限り歴史上初めてじゃないだろうか。大体、魔法を使える種族というのは竜族と人間族、それにエルフ族しかいないことになっている。魔法を使える猫なんて見つかった日には魔法界に激震が走るはずだ。
「あなた、一体何者なの?」
「にゃあっ」
人間の言葉が通じない猫に何を話しても無駄だった。魔法が使えるならもしかしたらと思ったけれど、猫は所詮猫か。
「だったら実力行使で捕獲させてもらうわ」
あたしは素早く片手印を結んで魔法使いだけが使う特別な言葉を口にする。
「<発火>」
次回、猫 v.s. 魔女の魔法バトルです。