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「魔法で身体能力を強化してるからね」
「アクセサリーか何かで?」
「まあ、そんなところね」
「そうだとしても、ウィルム相手に互角以上の戦いをするなんて、すごいセンスだね」
「お、よくわかってるわね。さすがそこの熱血バカとは違う」
「なんだと!?」
「何その態度。まだやる気? あなたの使い魔さんはあそこで伸びてるけど」
「くっ」
「そうそう。一つだけヒントを上げるとね、あなたの使い魔の攻撃はちょっと単調すぎるわ。ブレスと爪と尻尾くらいしか攻撃手段がないんだから、もう少しコンビネーションを工夫しないとすぐに見極められちゃうわよ」
「……」
「そこを直さないと一生かかってもあたしにもヘータにも勝てないわね」
バドアスは痛いところを突かれたらしく、顔を歪めながらも何も言い返せずにただ黙っていた。
「じゃ、悪いけど、鉄球を片付けなくちゃいけないから、先に失礼するわ。ミレイ、今日はありがと。また明日ね。バイバーイ」
そう言ってあたしは来た時と同じように台車を引いて闘技場から去った。……、途中で捕まったカルネには、ヘータのパワーファイターっぷりを宣伝しておいたので、明日の新聞には鉄球を振り回す写真付きで力持ちのヘータとして記事になるはずだ。
「なあ、お前、台車使ったり魔法使ったりしてたけど、そのくらいの鉄球なら素手で持ち運ぶくらい軽いだろ?」
「何を言ってるのかな? あたし、箸より重いものは持てないのよ」
「嘘をつきやがれ」
俺はうそぶくマナに冷たい視線をぶつけたが、少女は素知らぬ顔で台車を押し続けていた。俺の場合は永続魔法で身体全体を強化しているが、マナの場合は目立たないように消耗品のアクセサリーを使って腕の運動能力を強化している。もちろん結印の高速化のためだが、腕力もついでに強化されているのは間違いない。
まあ、白を切りたいなら別に追求したいほどのことではないけれど。
「だけど、瞬殺のはずの戦いを競り合ってるように見せるのは大変だったぜ。疲れたから今日はご褒美でいか飯がいいな」
「やだ、あんな臭いの」
「はあ? あれは磯の香りっていうんだよ」
「そんなことより、今日はラタトゥイユにしようと思うんだよね」
「ふざけんな。あんな残飯が食えるか」
「そうだ。ついでに、お祝いにショートケーキ買って帰ろうか」
「おい、聞けよ。米だって言ってんだろ。そんなんばっか食ってるから胸の病気になるんだぞ」
「あのさ、あたしは病気じゃないって何度言ったら分かるの?」
「どうみても病気じゃないか。いいから、いか飯食え。そしたら治るから」
「うるさい。治るわけないでしょ。それに、今日はラタトゥイユだって言ったよね」
「なるほど。今日こそはどっちが主人かをはっきりさせたほうがいいみたいだな」
「同感ね。晩御飯の買い物もあるし、帰ったら一瞬でケリをつけてあげるわ」
俺とマナは剣呑な視線を交わすと不敵に笑いあった。家の門をくぐったらその先は戦場だ。先手必勝、一発で沈めてやるぜ。
学園デビュー【終】




