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「ヘータのことはあたしの使い魔ってことになってるけど、あたしはあなたの能力を他の人に知られたくないわけ。でも、何の能力もない子猫を使い魔にするなんておかしいじゃない」
「まあ、それで今騒ぎになってるんだからな」
「うん。だから、だったら逆に魔法以外の能力があなたの能力だって思わせれば、みんな満足すると思わない?」
「確かにそうかもな。でも、俺が模擬戦に参加して見せればいいだけだったんじゃないか?」
「あたしと一緒に戦ったら、あたしが圧倒しちゃってヘータが本気で戦ってるって信じてもらえないかもしれないでしょ」
「なるほど」
実際、マナの戦力は授業の模擬戦では圧倒的すぎて、マナが援護したら使い魔の能力の証明にならないかもしれない。その点、1対1ならマナは援護できないからはっきりする。
「だったら、明日の試合は魔法なしに体術だけであのドラゴンもどきをぶっ飛ばせばいいんだな」
オロンというウィルム、マナとの模擬戦で一度、それから厩舎でもう一度見たが、まだ子どもで体格も経験も不足している上に普段の模擬戦の対戦相手のレベルが低いせいで慢心している様子だった。あれなら俺の体格でも先手を取ってしまえば何とでもなるだろう。
「まあ、そうね。前にあたしがやったみたいに、ヘータならあいつの攻撃を避けるのはそんなに難しくはないわ。ただ、素手でぶっ飛ばすとさすがにうそ臭くて裏があると思われるかもしれないから、ちょっと細工をね」
「?」
マナの指す指の先には何やら人が大勢集まって騒々しくしている建物があった。
「あれがナガール・センター。学園の学生や魔法使いのためのお店がたくさん集まってるショッピングセンターよ」
「そんなところで何をするんだ?」
「武器を買うのよ」
「何?」
人ごみに入るということで、マナは俺を抱えあげた。建物は広い2階建てになっていて、中には大きな吹き抜けの通路あり、その周囲にテナントが立ち並んでいるという構造になっていた。
マナは人の波を縫いながら奥へ奥へと進み、1軒のテナントの前にたどり着いた。
「ここは使い魔のための武器防具を扱っているお店よ」
「武器を使うのはありなのか?」
「大ありよ。大体ウィルムなんて全身甲冑みたいな鱗で覆われてる上に、爪は剣みたいな切れ味があるのよ。武器くらい使わなきゃハンデが埋まらないわ。もっとも、使い魔の知能だと難しい武器は使えないし、使わせるにも訓練がいるから中等部のレベルだとあんまり使ってる人はいないかな」
「ふーん」
意外に広い店内を見て回る俺たち。展示物の内訳は武器2割防具5割その他消耗品が3割といったところか。やはり使い魔が使える武器というのはあまり種類がないらしく、展示スペースも少ない。逆に防具は鎧を中心に割りと豊富に揃っていた。
「やっぱりウィルムで一番やっかいなのはあの頑丈な鱗よね。それを突き抜けてダメージを与えられて、かつ見た目も派手なものがいいとなると……」
「こんなのはどうだ?」
「あ、いいね。それにしよう」
それほど時間をかけずに武器を選んだ俺たちは、防具の方も見て回った。
「正直防具なんてなくても全部避ければいいだけなんだけどな」
「それだと逆に嘘っぽくて逆になにか裏があるって思われるかもしれないから、できれば何発かは攻撃を受けてるところを見せておくほうがいいと思うのよ」
「なるほどね。じゃあこれは?」
「それはちょっと極端じゃないかな」
「いや、むしろこういうときはさ……」
その後、俺とマナは展示されている防具を手に取りながらあれこれと試合の展開を議論して、ようやく既成品の中から適当なものを選択した。
防具は身体にフィットさせる必要があって買ったすぐに持ち帰ることはできないので、俺たちは試着の後、微調整を依頼して今日のところは店を出た。明日の昼に調整の終わった防具を受け取れば試合には間に合うはずだ。
明日が楽しみだな。




