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ライオンが大きな前足でなぎ払うように繰り出してきた凶悪な猫パンチをひらりと避け、俺は奴の懐に飛び込むと軸足にしている側の前足に足払いをかけた。
「何!?」
足払いを受けた前足は宙を舞い、ライオンは身体を反転させて背中から地面に激突した。一瞬のことで受け身も取れなかったライオンはひっくり返ったまますぐには動けず、俺はその隙にとっととその場を離れた。
その後、もう少し厩舎のあたりを歩きまわってみたが、言葉が分かる猫系の使い魔はあのライオンが一番大型だったようで、他に話しかけて意味がありそうだと思えるものはいなかった。
――帰るか。
諦めてそう思った瞬間、俺は何か妙な違和感を感じて立ち止まった。
――何だ?
全身の感覚に意識を集中して違和感の正体を探ろうとしたが、それは唐突に中断させられた。
「グオオォォォォォ」
「……耳痛てぇ」
目の前に立ちはだかるウィルムが吠えたのだ。何やら俺を睨みつけているようなので、何か俺が機嫌を損ねるようなことをしたらしい。
「あなた、早くどきなさいっ!」
何が何やらと思ってそのウィルムを見上げていると、横から猫系のやつが声を掛けてきた。
「そいつは進路を邪魔されるのが嫌いなのよ。怪我したくなかったら早く」
それを聞いてもう一度そのウィルムを見てみると、それはゼオ・ウィルムという種類の亜竜。いつぞやの昼飯の時に、中等部最強の使い魔と言われていた奴のことを思い出した。
――なるほどね。狭い世界で増長しちゃってるのか。ここにいる奴らはこんなんばっかだな。
バカバカしくなった俺は軽くジャンプしてブレスを吐けないようにマスクが被せられた鼻先を足場に厩舎の屋根へと飛び上がると、後ろも振り返らずにその場を後にした。背後には怒りに震えるウィルムの声が響いていたが、もはや気にも止める気はなかった。
――だけど、さっきの違和感は何だったんだろうな?
唯一の気がかりはそれだが、それもそれほど深刻な話でもなく、行きと同じく高いところを飛び移っているうちにすぐに忘れてしまった。
教室に戻ってきた時にはすでに授業は始まっていた。俺は足音を立てないように忍び寄ると、マナの机の上に飛び乗っていつものように寝そべったままで授業を聞き始めた。
「ね。やっぱり、僕はほっとけないよ」
授業が終わって昼食の時、ミレイがそう切り出した。
俺はブリトーなる外道な食べ物を心を殺して食べているところだったが、ちょっと面白そうだと思ったので耳をそばだてて話を聞くことにした。それにしても、米が入っていればいいとかそういう安直な発想で俺の昼飯を選ぶのはやめてほしい。




