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学園の厩舎はかなり広い敷地が確保されている。というのも、使い魔の中にはかなりの大型になるものもいるからだ。魔法使いの重要な道具である使い魔を1日の大半預かることになる厩舎は、学園の中でもかなりお金をかけられている施設でもある。
そのように広い敷地を必要とする厩舎は必然的に校舎からは離れてしまうものの、できるだけ演習場に近い場所に作られていた。俺は猫の動きとして不自然にならない程度に高いところを飛び移って学園内の施設を俯瞰しながら厩舎へと向かっていった。
雨が降らず気温も年間を通して安定しているトルンなので、厩舎には大きな開口部があって、その先は芝生に覆われたグラウンドになっていた。使い魔たちは屋根の下で日差しを避けて休むことも、芝生の上で自由に走り回ることもできるのだ。
そんな開放的な管理でも使い魔が逃げないのは、逃走防止用の魔道具を付けられているためで、厩舎やグラウンドの外に出ようとすると強制的に中に引き戻されるようになっていた。また、監視員が常駐していて、何かトラブルが起こった時にはその魔道具で使い魔の動きを強制的に止めることもできるのだ。
そういうわけで、俺は特に何の苦労もなくふらりと厩舎の中へと入っていった。
――うわー。いっぱいいるなー。
正直な所、そこに預けられていた使い魔の数は俺の想像をはるかに超えていた。考えてみれば中等部・高等部に在籍する学生の7、8割はここに使い魔を預けているのだから、数が多いのは当然だった。
そして、俺が確認した限りではその全部が魔法生物だった。ということは、この学園で魔法生物でない使い魔は俺だけということになる。
――ま、そりゃ当然だけどな。
魔法生物と普通の生物の違いは魔力の量だ。普通の生物も魔力を持つがその量は僅かで魔法として消費すればそれだけで命を落とす。しかし、魔法生物は魔法を使うのに十分な魔力を宿していて種毎に決まった特殊能力という形で行使することができる。
ちなみに人間は魔法生物ではないため自らの魔力はほとんどない。代わりに、理力という力を持って自然界に存在する魔力に働きかけ、印や魔法陣を通じて任意の魔法を発現させることができるという特殊能力を持っている。ただし、理力の有無は生まれつき決まっていて、理力のある人間だけが魔法を使えるのだ。
使い魔たちの間を縫うようにして歩きながら厩舎に集う使い魔たちを観察してみたが、マナの襟元から模擬戦を見ていたのと同様に犬系の数が一番多いようだ。ついで猿系、猫系といったところか。俺は猫だから猫系のやつらとならある程度は会話できるが、それ以外のやつらの言っていることはさっぱりだ。
「おい。ちょっといいか?」
俺は手近にいた大型の猫系の使い魔に声を掛けてみた。こいつは確かアーヴ・ライオンとかいう水属性の魔力を持った魔法生物だったはずだ。
「……」
返事をしない。耳が悪いのかと、もう一度、もうちょっと大きな声で話しかけてみることにした。
「おい。ちょっといいか?」
「……」
「ちょっといいかって聞いてんだよ、このウスラトンカチが」
「なんだと!?」
ウスラトンカチが凄んだ声で返事をしたのを聞いて、周りの奴らが一斉にこの場を離れた気がするが、そんなことはどうでもよかった。
「なんだあのバカな子どもは」
「監視員が来る前に食い殺されるぞ」
周囲からそんな猫どもの囁きが聞こえてくる。それを無視して、こんな機会だからと俺は前から疑問に思っていたことを偉そうにふんぞり返っているライオンに聞いてみた。
「お前さ、一つ質問があるんだけど、使い魔やってて楽しいか?」
「お前、良い度胸じゃねぇか」
「いや、別に喧嘩を売ってるわけじゃないんだけどな。純粋な疑問なんだから素直に答えてくれると嬉しいんだけどさ、お前、使い魔やってて楽しいのか?」
「お前みたいな世間知らずな子猫にはきちんと社会のルールってものを教えてやる大人が必要みたいだな」
「はぁ。大型の生き物なら脳も少しはマシかと思ってたけど、結局このレベルか」
「いつまでも減らず口を叩いてんじゃねぇ!!」




