05
「マナさんっ!!!」
ヘータの登録も問題なく終わって教室に入ろうとしたところで、あたしは誰かに大声で呼び止められた。
「げっ。カルネ!?」
カルネはあたしのクラスメイトで、赤毛をおさげにして眼鏡をかけた女の子だ。ちなみに眼鏡は伊達眼鏡らしい。そして、クラス一面倒くさい人物として知られている。新聞部の記者としての使命感に燃えていて、何かあるとすぐに首を突っ込んできて根掘り葉掘り聞きまわり始めるからだ。
「マナさんがとうとう使い魔を契約したって聞いたんですけどっ」
カルネのその一言で周囲は一斉にざわめき始めた。中等部高等部を通して無敗を誇っていながら、頑なに使い魔を持つことを拒否していたマナが、とうとう使い魔を持つことにしたのだ。学園の学生として興味を持たないほうがおかしいというものだ。きっとこの話を新聞にすれば飛ぶように売れるに違いない。
「どっから聞いてきたのよ」
「ここに来る前に事務室によって使い魔の登録を済ませてきたんでしょ」
「……あなたの早耳には呆れるわ」
「お褒めに預かりまして。で、その子猫が使い魔ですか?」
カルネは眼鏡に指を掛けて、あたしが抱えたままのヘータを見てそう聞いた。伊達眼鏡なのに眼鏡の何を気にするというんだろう?
「ええ、そうよ」
ちょっと発表が予想より早いけど、別に隠すことではない。あたしは素直に頷いた。
「一見ただの子猫みたいですけど、何か特殊能力が?」
「こんなとこで手の内を晒すわけがないでしょ」
「でも、ただの猫を使い魔にするなんて聞いたことがないです。なにか特別な理由があるに違いないと思うんですが」
「あるわよ」
「やっぱりっ!」
「でも、教えない」
「がくっ」
オーバーリアクションで落胆を表現するカルネの脇をすり抜けてあたしは教室に入ろうとしたが、そんな簡単に解放されるはずもなく、後ろ手に袖を掴まれた。
「まだ話は終わってないですよ」
「はぁ。まだあるの?」
「マナさんは以前、使い魔を持つという考え自体が好きじゃないと言っていたと思うんですが」
「今でもそうよ」
「でも、その子猫は使い魔にしたんですよね」
「そうだけど?」
「矛盾してないですか?」
さすがにカルネは新聞部が長いだけあっていいところを突いてくる。でも、まあ、こんな質問にいちいちまともに相手をする必要なんてそもそもないんだよね。
「あたしが批判的なのは相手の意志も尊重しないで一方的に使い魔にすることよ。この子の場合はお互いに合意してるわ」
「猫の意思を確認する方法があるなんて話は初耳です」
「それはただのあなたの勉強不足よ。もういいかしら?」
「その方法というのは?」
「自分で調べなさいよ。それより教室に入れてくれる?」
あたしは少しいらついた風にカルネを睨みつけると、カルネはようやく矛を収める気になったようだ。




