03
ヘータは子猫のくせに、あたしの歩調に全く遅れることなく軽々とついて来るだけでなく、歩きながらなんだかんだとよく喋る。この辺のブチネコはびびりのくせに威張っているとか、その隙間を抜けたところに美味い魚料理の店があるとか。
「お前、これからどこへ行くんだ?」
話の切れ目でふと思い出したように聞くヘータ。
「あなた、知らないでついてきたの? 学校よ」
「学校って河の向こうのやつか」
「そう。トルニリキア魔法学園よ。あたしはそこの中等部の2年生なの」
あたしが通うトルニリキア魔法学園はトルンの街の北を流れるクプア河を渡った向こう側にある。これまでは学園の敷地内にある寮に住んでいたが、これからは毎朝河を渡って通学しなければならないのだ。
「中等部って何だ?」
「……、もういいわ。とにかく、あなたはあたしの使い魔ってことでこれから学校に行くの」
「は? 誰が誰の使い魔だって?」
ヘータは不快そうな顔つきであたしを睨んできた。
「あなたがあたしの使い魔よ」
「俺とお前はパートナーだって言ったよな」
「知ってるわよ。でも、学校じゃパートナーなんて言ったって誰も分かんないから、使い魔って言うことにしておいたほうが都合がいいのよ」
それを聞いたヘータは若干不満そうではあるものの、一応納得した様子だった。
「あ、後、学園内では魔法禁止ね」
「何でだよっ!」
「あのね、魔法が使える猫なんかがいるなんて分かったら大変なことになるのよ。そのくらい分かるでしょ」
「……、まあ、そうかもな」
この世で魔法を使える生物は竜、人間、それにエルフというのが誰も疑わないこの世界の常識なのだ。それなのに、ただの子猫が魔法が使えるなんてことが分かったらどんな騒ぎになるか。
「特に学園の中はよくないの。野心の強い研究者や魔法使いにはちょっと危ないやつもいるんだから」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんよ。あ、後、こうやって話をするのも控えてね。あなたが話しかけるのは大丈夫だと思うけど、あたしが返事をするのは不自然だから」
「めんどくせーな」
ヘータはそう言うとすたすたと先に歩いていった。
「それに、切り札ってのは隠しておくから切り札になるんだしね」
誰にも気づかれない程の小声でそう呟いたあたしは、すぐに先行する子猫を追いかけた。
「ねぇ、ところで、さっきから変な声が聞こえるんだけど」
「変な声?」
子猫に追いつくとあたしはさっきから気になっていたことを口にした。
「なんかよく分かんないけど、こんなところにいやがったとか、今日こそぶっ殺すとか。この辺には誰もいないはずなのに」




