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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
2014 クリスマス企画 「クリスマスはダンジョンで」
129/130

03

 魔王の玉座から瞬間移動のようにバドアスの横に移動したマナが、物理的に彼をぶん殴ったのだ。


 予想外の攻撃に空中で意識を手放したバドアスはそのまま地面に激突するかと思われたが、マナの放った衝撃緩和魔法でふんわりと地面に着陸した。


 「あーあ、終わっちゃった」


 自分に与えられた仕事を完璧に無視してバドアスを葬り去ったマナはつまらなさそうにそうつぶやくと魔王の玉座へと戻ろうとした。その時、


 「発火(レムス)!」


 鋭い攻撃魔法の気配にとっさに飛びのいたところへ、特大の火の玉が通り抜けて行った。


 「誰?」


 この起動速度でこの威力の魔法を撃てる存在は学園の生徒にはそう多くはいないはず。少なくとも中等部で知っているものはいない。いったい誰が?


 と思って振り向くと、そこにいたのはまだ小さな黒い子猫だった。


 「ヘータッ、どういうつもり!?」

 「その奥にある宝箱の中身、なかなかいいものだということじゃないか」

 「猫には関係のないものよ。大体、あんたはエントリーすらしてないでしょ」

 「そんなの関係ないね。世の中弱肉強食、奪い取ったものの勝ちなんだよ」

 「発火(レムス)!」


 屁理屈をこねるヘータの鼻先に、マナは石礫いしつぶてを何発か放ってやった。軽々と躱したヘータの後ろの石壁に、先端が鋭くとがった石礫がぐさぐさと突き刺さる。


 「そんなことが許されるのなら、私が真っ先に奪ってるわよ」

 「お前の事情なんか関係ないね」

 「あんまり勝手なことを言ってると、本気で潰すよ」

 「やれるものならね」


 その瞬間、ボスの間を支配する空気が一変した。2人の闘気が部屋を埋め尽くしたのだ。アリ一匹すら動きを止めてしまうような異様な威圧感を放つ2人は、その場でダンジョンを破壊するかというような勢いでお互いに魔法を撃ち比べ始めたのだ。


 ボスの間から遠く離れたところにまで響く魔法バトルの音に、他の挑戦者たちは恐れをなしていた。


 当日の朝の説明で、ラスボスが誰かは全員の知るところとなっている。さすがにお祭りということでさしものマナといえども手加減はあるだろうと皆思っていたが、今ここで響く音は到底手加減しているとは思えない音だ。


 「俺、棄権するわ」

 「俺も」


 身の程を知っている者たちが続々と棄権を決めていく様子に実行委員は焦りを隠せなかった。とはいえ、誰がマナを止められるというのか。


 誰でもいいから、マナを倒してくれ。ある意味予想通りの展開に、誰もがそう願わざるを得なかった。


 そんな中、誰も注目していなかった無名の少女は、他の挑戦者たちに遅れつつも自分のペースでダンジョンを攻略していた。


 その名をデミという。初等部時代のマナの友人の一人でマナと同じプラー寮出身の彼女は、最近ではマナとは距離があったものの、今年のサバイバル実習の時にマナと同じ班になって以来、再びマナの友人として認知されるようになっていた。


 他のマナの友人とは違い特別な力のない彼女は、使い魔のフルムー犬のショコアを連れて派手さはないもののこつこつとダンジョンの攻略を進めていたのだ。


 「やっと着いた」


 途中から他の挑戦者と出会わなくなったことを不審に思いながらも攻略を進めたデミは、とうとうボスの間の入り口へとたどり着いた。


 ボスの間は異様な静寂に包まれていた。


 「あの、ごめんください。マナさーん」


 思い切って呼びかけてみたものの、中から返事はなかった。


 意を決して中に足を踏み入れてみると、そこは凄惨な現場だった。


 何をどうすればこんなことになるのかというほどにえぐれた石の壁、そして天井。大小さまざまに砕けた石が散らばる床。


 左には石の表面が溶けているかと思えば、右には壁一面が凍り付いている。むこうにはうごめく大樹の根があり、こちらには足元の石ころは帯電してぱちぱちと放電を繰り返していた。


 「あ、バドアスさん」


 床に転がってぴくりとも動かないバドアスを見つけてデミは駆け寄った。


 「よかった、死んでない」


 ただ気絶しているだけだということがわかり安堵したデミは、他に人がいないかとあたりを見回してみた。そういえば、マナさんはどこにいるんだろう。


 と、むこうの大きな石の陰から少女の足が伸びていることに気付いた。


 あっと思ったデミはバドアスを置いてそちらへ駆け出した。予想通りそれはマナだった。なぜか変なコスチュームに身を包んではいたが。


 「マナさん」

 「……あ、デミ。どうしたの」

 「なんでそんなところで寝転がっているんですか?」

 「いや、いろいろ事情があってね」


 ヘータと死闘を繰り広げて体力を使い果たしたとは暴露できないので、マナはあいまいに笑ってごまかした。


 「それより、私もう動けないんだけど賞品ならその奥にあるから取ってっていいわよ」

 「ええっ」


 デミはマナに言われて奥の部屋に目をやった。もうとっくに誰かゴールしていると思っていたが、まだ誰もゴールしてないということ?


 「ちょ、マナ。お前、ふざけんなよ」

 「あんたは黙ってなさい」


 もうマナもヘータも1ミリも体を動かす体力は残っていないのに、口喧嘩をする気力だけは残っているらしく、2人でにらみ合っている。


 その間をふらふらとデミは歩いて行って、魔王の王座の後ろに隠された小部屋の中の祭壇の上に置かれた封筒を取り上げた。


 「あの、じゃあ、マナさん、失礼します」


 そう言ってデミは、いまだに使い魔とにらみ合いを続けているマナを尻目に、ちょっと現実感のない足取りでボスの間を出ていった。



クリスマスはダンジョンで【終】

久しぶりにマナたちの活躍を書いてみましたが、結構楽しかったです。


これを書く前に久しぶりにこの作品を読み直してみたのですが、割と面白いじゃないかと思いつつ、いろいろ問題も発見しました。


今は他の連載で手が空きませんが、そのうち復活させたいなと思っております。その時にはまたお付き合いいただければと思います。


よろしくお願いします。

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