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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
サバイバル実習<後編>
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26

 「身体能力と生活習慣の違いって?」


 デミが尋ねた。


 「ハーフエルフがジキって呼ばれるのは知ってるでしょ。いわゆるゲテモノ喰らいっていう意味の言葉だけど、そういう食生活には理由があるのよ」


 ハーフエルフは、そしておそらくは人里には姿を見せないエルフも、手先が壊滅的に不器用なのだ。それはもう、料理をするどころか食器を扱うのすら難しいくらいに。


 結果、必然的に生の食べ物を手で引きちぎってかぶりつくというような動物的な食事にならざるを得ず、人間の食事とは極めて異質な食事になってしまう。


 さらに不器用な手先は、片付けや掃除が不可能だったり、字が書けないというような、人間生活を行う上での基本的な能力の欠如として現れてしまい、差別を助長してしまうのだ。


 洞窟の中で部屋をどうにか片付けようとした痕跡があったり、判読不可能な文字をノートに書いて練習していたりするのは、まだ人間社会へ復帰したいという希望があるのだろう。


 そのタリアの保護者のような役割をしているのが、セーラー服を着た5歳くらいの少年の姿をした、オルディヒクソスという名のドラゴンだ。愛称はルディーといい、タリアや学園長はそちらの名前で呼んでいた。


 ルディーは1年前に孤児になったルディーを拾って、自らをハーフエルフと偽ってキリシュ島でタリアを育ててきたが、タリアの潜在的な希望に気づいて、人間社会への復帰の道を探るべく旧知の仲だった学園長に託そうとした。


 しかし、ルディーの予想に反して、タリアはキリシュ島を離れることを拒否したのだ。タリアの中に差別を受けた時の記憶が生々しく残っていて、まだ気持ちの整理がつかないのだろう。


 「ちょっと待ってください。それでは、怪現象を起こしたり魔力結晶を奪ったりした理由は何ですか?」

 「怪現象は単なる嫌がらせよ」


 1年も無人島で暮らしてきたタリアにとって、サバイバル実習で上陸した人間たちは昔の差別を思い出させるものだったのだ。


 もしもこの人間たちがこのまま島に残ったらまた自分が辛い目にあうかもしれないと思ったタリアは、なるべく早く人間たちが島から出ていくように嫌がらせをすることにしたのだ。


 ただし、魔力結晶の件だけは違った。


 「デミ、魔力結晶って、どうやって作るか知ってる?」

 「え? 鉱山とかで掘り出すんじゃないんですか?」

 「違うよ。エルフが作ったものを奪うんだよ」


 魔力結晶がエルフの手による人工物だということは意外に知られていない。さらに、エルフは魔力結晶を輸出することを禁止していることはもっと知られていない。


 しかし、人間社会は一定の魔力結晶の供給を必要としていて、何らかの方法で入手しなければならない。必然的に密輸と略奪が主な供給源となる。


 いずれもエルフ領内で人間の領土と接する辺境地域が中心で、住民はエルフ社会で差別を受けているようなものが多くなる。例えば、ハーフエルフの子どもを持つ親のように。


 実際、辺境地域の住民にとって魔力結晶の密輸は数少ない現金収入の手段で、タリアの親も手を染めていた可能性が高く、タリア自身も魔力結晶の製造を幼い頃に見ていた可能性もある。


 タリアにとってみれば、魔力結晶は生き別れた親の形見のようなものなのだ。流通量の少なさから、あたしの魔力結晶が本当にタリアの親が作ったものである可能性も決して低くはない。


 「丘の上でタリアが魔力結晶を調べていたのは、自分の親の作ったものかを確認してたんじゃないかな。がっかりしてたみたいだから、ハズレだったんだろうけど」

 「……、悲しい話ですね」

 「そうだね」

次回更新は水曜日です。

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