02
「何やってるの?」
夢中で胸の瘤と格闘していると、突然首筋を摘まれて持ち上げられた。やばいって、そこを強く掴まれると全身の力が抜けるんだよ。
「び、病気の診察を」
「へぇ。何の病気かしら?」
「その変な瘤のことだよ」
「瘤?」
あたしはヘータが指したあたりを見てみたが瘤らしいものは見当たらない。
「瘤なんてないじゃない」
「あるじゃないか、そこに。でっかい瘤が2つも」
「は?」
もう一度自分の胸を見てもやはり瘤らしいものは見当たらない。あるのは最近大きくなってきて肩こりの原因になっているものが2つくらいしか……
「このバカ猫がぁっ」
「くっ、苦しい。うぇっ」
「これのどこが瘤よ。乙女の胸を指さして病気とかふざけんじゃないわよ」
「首筋を掴んだまま振り回すなーっ!」
そんなこんなで朝は一瞬天国が見えかけたが、なんとか一命を取り留めて今は屋敷を出てマナと道を歩いている。
「だから、なんで朝がパンなんだよ」
「何よ。文句でもあるの?」
「あるね。朝はご飯に納豆に味噌汁に決まってるだろ」
「はぁ? 朝はトーストに決まってるでしょ。大体ご飯なんてめんどくさいし、美味しくないし、臭いし」
「くさ……。あの匂いがいいんじゃないか。考えてみろ。粒が立ってつやつやして湯気が立ち上るほかほかのご飯。匂いを嗅いだだけで食欲がそそられる。それ以上の幸福なんてありえないだろ」
「うわ。何それ、ありえない」
「……、お前とは一度じっくり食事について話し合う必要があるみたいだな」
俺はそう言いながら、尻尾を徐に持ち上げた。
「奇遇ね。あたしも同じ事を考えていたわ」
あたしも右手を肩の高さまで引き上げた。
2人の間に静かに飛び散る火花。
「知ってる? 公道で魔法を使うのは禁止なのよ」
「うん。俺もここじゃちょっと狭いかなと思ってたところだよ」
「じゃあ、この続きはまた後でね」
「わびを入れるなら今のうちだぞ」
「それはこっちのセリフよ」
休戦合意をしてあたしが構えを解くと、ヘータも同時に尻尾を下ろした。




