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子どもは相当な俊足だった。いや、単に足が速いのではなく、常に魔法で身体の動きを補助しているのだろう。結印の要らない神秘魔法だとこんな芸当もできるのか。
進路は上へ上へと向かっていた。つまり、火山だ。
まさかこのまま火口まで行ったりしないよな。
そう思ったところでふっと視界が開けて、見晴らしのよい丘の上へと出た。そこは火山の中腹程にあって、海と山頂の両方が見られるいわゆるビスタポイントだった。
子どもはそこでようやく立ち止まって腰を下ろすと、握りしめたままだった魔力結晶を手に取って、丹念に調べ始めた。
最初のうちは喜色が顔に表れていて、期待に胸を膨らませている様子だったが、やがて、何かに気づくたびに表情が曇っていき、最後にはすっかり意気消沈した様子になってしまった。
どうやらそれは目当てのものではなかったらしい。魔力結晶だということは分かって奪って行ったのだから、単に結晶が欲しかったというわけではなく、そこに封じた魔力が問題だったのだろうか。
とにかく、魔力結晶がこの子どもの目当てのものではなかったということは、待っていればいつか手放すはずだ。その隙をついて奪い取れば任務完了だ。
そう思って、忍び足で背後から子どもの方へと近づこうとしたところで、俺はとんでもない気配を感じて思わずその場にしゃがみこんだ。
なんだ、これは?
「あの洞窟?」
「うん。入り口の辺りに足跡があったわ」
子どもに魔力結晶を強奪された後、あたしたちはミレイとシシーと合流して、再びトゲバツツジの周辺の探索を進めることにした。
あの子どもがこの島で生活している以上、雨露をしのげるだけの場所をどこかに確保しているに違いなく、唯一の手がかりであるトゲバツツジの周辺にそれらしい痕跡を探すのが最良の選択だろうという結論になった。
そして、とうとうミレイが洞窟の入り口の付近に足跡を見つけたのだ。
「入ってみよう」
そういうと、松明を片手にあたしは返事も聞かずにどんどん中へ入っていった。慌てて他のみんなが追いかけてくる。
「大丈夫かな?」
「さっきの子どもなら大丈夫。そんなに強くない」
「いや、人の家に勝手に入ることがさ」
「人の大切なものを強盗したんだから、そのくらいされても文句は言えないよ」
ミレイがなんか言ってるが、あたしは気にせず、さらにどんどん歩いていった。
外の光が入らなくなった辺りで、興味深い横穴を見つけた。それは、多分、部屋と呼ぶのが適切なんだろうと思われる場所だった。
素直に部屋と呼ぶことに若干の躊躇を感じた理由は、そこが想像を絶するほど乱雑に散らかっていたからに他ならない。というか、一瞬、ごみ捨て場と勘違いしたくらいだ。
部屋だと確信した理由は、机とベッドが置かれていたことと、照明設備が設置されていたことが視認できたからだ。
中に入ると確かに生活しているらしい様子が見て取れた。物の合間に生活動線が確保されていたし、散らかっているように見えたものも一応関連するもので集められているようにも見えた。
集められているというか、積み上げられて崩れたものをもう一度積み直したような状況だったが。




