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「はっ? 俺が何をやったんだよ」
「あたしとヘータがもう少しってところまで追い詰めたところに、なんにも考えないで魔法をぶっぱなして敵に塩を送ったんでしょうが。お陰でまんまと逃げられたじゃないのっ」
「うぅっ」
ようやく状況を飲み込めたのか、バドアスは顔をしかめてうなだれた。
「わ、悪かったな」
「マナさん、怪我は?」
「……魔力結晶を盗られたわ」
「「えっ」」
あの瞬間の無謀にも思えた突進は、あたしを攻撃するためのものじゃなくて、始めから魔力結晶を強奪するつもりだったのだ。
身体を逸らして躱した瞬間、Tシャツごと魔力結晶を掴んだ子どもは、あたしの蹴り上げにも耐えて魔力結晶を握ったまま空に舞い上がり、そのまま逃げ去ったのだ。
それにしても、子どもが魔力結晶を狙っていることが分かっていたにもかかわらずのこの失態。あたしは自分の不甲斐なさにほぞを噛む思いだった。
幸いなことに、ヘータが子どもを追いかけていった。あいつならそう簡単に見失わないだろうから、隙を見てうまく取り返してくれることを期待するしかない。
「カルネは?」
「ここですわ」
バドアスとグループ行動をしていたカルネの姿が見当たらないと思っていたら、いつの間にか少し離れたところに立って蜂と交信をしていた。
「手分けして探していたら急にバドアスさんが走り出しましたので、何事かと追いかけて来たところですわ。今は、先ほどの子どもが逃げた方向を蜂に探索させているところです」
「ごめんなさい。マナさんが戦い始めたから、あたしが他の人を呼んでこようと思って」
「デミの判断は間違っていないわ。悪いのはこのバカだけよ」
「むぅ」
さすがにバドアスも反省しているらしく、バカ呼ばわりしてもいつものように反撃してはこない。
「カルネ、何か分かりそう?」
「広範囲に蜂を飛ばしているのですが、まだ何も。もうこの近くにはいないのではないかと」
カルネのアリアノ蜂は追跡能力に優れた生物ではないから、この場を離れてしまったらそれ以上の探索は難しい。これは仕切り直したほうがいいかもしれないな。
「分かったわ。とりあえず、ミレイとシシーと合流して、今後の方針を考えましょ」
黒猫の子猫としての俺の身体は、尾行に極めて適正がある。
まず、身体が小さくどんな狭い所でも通り抜けられる。また、黒い体は影に入ると目立ちにくく、足音の立ちにくい足の作りと合わせて、尾行対象に気づかれにくい。
さらに、魔法生物ではないことで、魔力に敏感な生物に存在を気取られることもないのだ。
今も、俺は相手に全く後ろを振り向かれることなく、一定の距離を保ったままぴったりと後ろを走り続けていた。
一体、どこまで行くつもりなんだ?




