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その魔法は俺、子ども、マナを結ぶ線上を直進してきて、誰を狙ったものかは分からなかったが、とにかく一番手前にいる俺は防御か回避かを即座に選択しなければならなかった。
そして、俺は一瞬の躊躇の後に回避を選択した。何度も魔法を使っていると、俺が魔法を使えることが誰かに気づかれてしまう可能性が高くなる。回避できるならそれのほうがいい。
回避を選択した俺の決断を見て、マナも即座に射線上から身を翻した。
俺が回避を選択した時点で挟み撃ちの作戦は崩れている。ここで魔法を使わない決断をしたということは俺が子どもへの牽制も放棄したことを意味していて、マナが防御魔法を発動すれば子どもをフリーにしてしまうことになる。
そうなれば勝負ありだ。どれだけ魔法の技量に差があっても無抵抗のまま攻撃魔法の標的にされて無傷でいられるわけがない。
だから、この時点では、マナの選択肢は回避一択だった。
ところが、それに対する子どもの反応は予想を裏切るものだった。
その子どもは、わざわざ射線を横切るように、回避を選択したマナへと飛びかかったのだ。
熱旋風にワンピースの裾を焦がされながらも、間一髪魔法の直撃を避けた子どもはマナの胸元に殴りかかった。
しかし、マナは普通の魔法使いとは違って体術もできる。
むしろ、近接魔法戦の場合、魔法そのものの技量よりも体術のほうが決定的な要因になることが多いと、正規の教育課程に含まれないにも関わらず、個人的に特別授業を受けていて、格闘技の大会に選手として出場してもいい程度には訓練を積んでいるのだ。
不意打ちの攻撃だったが、上半身を逸らすように直撃を避けると、そのまま後ろに倒れ込むようにして両手をついて、バク転をするように殴り掛かってきた子どもの腹を蹴り上げた。
ブチッ
何かが千切れるような音とともに、子どもの身体が空へと舞い上がった。マナはそのまま空中で一回転すると、両足で着地して空を睨みつけた。
「しまった」
そうマナがつぶやいた瞬間、俺は手近な木に飛び移って子どもの後を追い始めた。蹴り上げられて空に舞い上がった子どもは、そのまま落ちて来ず、飛行魔法で手近な枝に飛びつくと、そこから枝づたいに逃げ出したのだ。
それは本当に一瞬の出来事で、実に鮮やかな逃げ際だった。
「バドアスッ!!」
子どもの後をヘータが追いかけていったのを見て、あたしは苛立ち紛れに森の奥に怒鳴りつけてやった。あたしとヘータの挟撃作戦の邪魔をした戦犯がそこに突っ立っていたからだ。
「マナ、大丈夫か?」
「大丈夫か、じゃないわよっ」
「マナさん、服がっ」
後から現れたデミがあたしの姿を見て驚きの声を上げた。
あたしのTシャツの襟元が大きく引き裂かれて、胸の谷間が色っぽく露出しているのを見てのことだろう。
たしかに、Tシャツの襟元が裂かれたのは不快なのだけど、今の問題はそれではない。
「バドアス。あなた、お仕置き決定」




