表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆ハーレム100(旧)  作者: 松宮星
勇者世界
9/16

凄腕盗賊のお値段  【リュカ】

「あなた方は、騙されているんです」

 馬車の中で、今日もテオは絶好調だった。


「あの男は言葉巧みにお客の不安をあおり、自分に依存させ、宝石を売りさばく悪徳霊能者です。宝石商とつるんでいるのでしょう」

 テオは、ドロ様は詐欺師なのだと言い張っている。


「もう一度言います、あの占い師の言いなりに仲間を増やすのは反対です。あの男にとって都合がいい、無能者を紹介されかねません」

「アレッサンドロさんはそんな人じゃない!」クロードが強い口調で否定する。

「第一、勇者が敗北したらこの世は終わる。自分の為にも、最善の人物を紹介してくれるはずだ」


「あの男が有能と思い込んでいるだけかもしれません。仲間にする人間の技量は、精確に見極めなくては。魔王に『百万ダメージ』以上を与えられる人間のみを仲間に加えるのです。無能者は要りません」

「う」

 そこで、クロードは、黙りこむ。

 今のは……クロードにはきついわよね。今日もアタシは目隠ししてるから何も見えないけど、鼻の頭を赤くしてうつむいているんだろうな。


「わかったわよ、テオドールさん」

 アタシは強い口調で言った。

「仲間候補には、みんなが先に会って。みんなが反対するような人なら、アタシは対面しないようにする」

「それが無難ですね」と、テオ。


「でも、どんな細心の注意を払っていても、事故ってのもある」

「事故?」

「ポロッと目隠し外れちゃうとかで、アタシがうっかり萌える事、あるかもしれない」

「事故は未然に防ぐべきです」

「うん。でも、萌えちゃったら、もう取り返しはつかない。どうしたって、その人、仲間入りでしょ? そうなったら仲間の技量がどうのと責めないで、仲間として受け入れて欲しいんだけど」

「そうですね。相手の技量不足を責めるより、多少なりとも活用する方法を考える方が建設的ですね……了解しました」と、テオ。


「サンキュウ……」

 アタシの右耳の側で、聞き取れるか聞き取れないかの小さな囁き声がする。

 クロードったら。鼻の頭は真っ赤なんだろうな。



 馬車が止まった。

 ドロ様の占いの館の前に到着したみたい。


 ジョゼ兄さまがアタシの手を取る。目隠しをしたアタシを、外へと連れて行ってくれる。


 昨日、来た時は夜だったけど、今は昼前だ。

 ざわざわと街の音がする。

 物売りの叫び声。女性達の会話。荷馬車の音。

 そんな音がどんどん小さくなってゆく。表通りから横道に入ったようだ。占いの館は狭い通りにあるっぽい。


 しばらく歩くと、アタシの体にドンと軽い衝撃が走る。


「ごめんよ〜」

 子供の声?

 子供がぶつかってきたのかな?


「あ! 痛たたたたッ! 何しやがる!」


 ん?


 アタシのすぐそばで、ジタバタと地面を蹴る音がする。


「離せ! 離しやがれ!」

 子供が叫んでいる。


「だめだ。返しなさい」

 アランの声だ。


「返すぅ? 何をさ?」

「とぼけても、駄目だ。盗ったろう?」


「ぎゃああああ、やめろ! 返す! 返すから、やめて!」


「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! もう許して、痛いよぉ〜」


 一体、何がどうなってるの?

 アタシは、ちょっとだけ目隠しをズラした。


 蛮族戦士スタイルのアランが、十二才ぐらいの子供を左腕だけで背後から締めつけていた。

 汚れたシャツとズボンの、痩せた子供だ。半泣きになっている。


「にーちゃん、出すから、手をゆるめて」

「少しだけだぞ」


 子供がシャツの胸元から、珊瑚(コーラル)のペンダントと金袋を取り出した。

 どっかで見たような……

 あ。

 アタシのだわ。


「ちぇっ、おマヌケな貴族がいると思ったのに……素っ裸の奴隷のにーちゃんが護衛だなんて、サギくせえ」

「裸ではない」

 アランが頬を赤く染める。

「災厄除けスタイルなのだ」

「バカ言ってんじゃねえよッ! 貴族に変なカッコーさせられて! あんた、バカだろ!」

「バカ? 初対面の年長者に失礼だぞ」


 アランにギューと締められて、子供がぎゃ〜〜と悲鳴をあげる。


「スリですね!」

 メガネの奥から、蔑みの目でテオが子供を見下す。

「警備兵につきだしましょう」


 子供の顔色が変わる。


「いいわよ、別に」

 子供の服は汚れているし、髪の毛はボサボサ。目ばっかり大きくって、痩せてるし。

「アランのおかげで何も盗られなかったし。離してあげましょうよ」


「犯罪者を見逃すんですか?」と、テオがおっかない顔でアタシを睨む。

「いいでしょ。犯罪は未然に防がれたんだから」

「防がれてません! 窃盗は行われました! 盗難品を奪い返しただけです!」

「だけど、実際、被害にはあってないでしょ?」

「ここで何の咎めもなく放つのは、単なる偽善です。この子供は、あなたの甘さを嘲笑いながら、別所で犯罪を犯すに決まっています」

「決めつけるのはよくないわよ。反省して、もう二度としないかもしれないじゃない」

 テオは一瞬、喉をつまらせ、それから声を張り上げた。

「馬鹿ですか、あなたは!」

 馬鹿……って……

「ねえ、テオドールさん。アタシは良いって言ってるのよ」

「ささいな悪の芽でも見逃せば、巨大な悪を生み出します。いいですか、犯罪者というものは再犯を繰り返しやすく」


「あ〜 も〜 うるさい!」

 アタシは声を荒げた。


「盗られたアタシが良いって言ってるの! 横から、ごちゃごちゃ、うるさすぎよ、あんた!」

 テオが目を丸めてアタシを見つめる。アタシが切れたんで、びっくりしたみたいだ。


「アタシはいいとこのお嬢さまだったし、お師匠様に引き取られてからだって大事にされてきたわ! あんただって貴族でしょ! その日の暮らしに困った事なんか、一度もない! そんなアタシ達が、この子の将来を奪っていいわけないわよ!」


 テオが茫然とアタシを見つめ、それからうつむいた。


 ジョゼ兄さまは、よく言ったって感じで頷いてくれた。

 クロードはアタシににこやかな笑顔を向けていた。けど、アタシの視線に気づくと鼻の頭を染めてそっぽを向いた。『た、たまには格好いい事、言うなって、ちょ、ちょっと感心しただけだからな』とか、もごもご言ってた。

 お師匠様は、いつも通りの無表情。


「アタシの物、取り返してくれてありがとう、アラン」

「いいえ、役目を果たしたまでです」

 蛮族戦士が照れたように笑う。


「その子、離してやってくれる?」

「わかりました。おい、おまえ、二度と、この方に害をなすなよ」

 アランが含めるようにそう言ってから、子供から太い腕を離す。


 子供は、アタシやアラン、テオへと視線を動かし、それからアタシに視線を戻した。

「ま……礼は言っとくよ。サンキュウ、おねーちゃん」

 アタシはかぶりを振った。お礼を言われるようなことは、何にもこの子にしてあげてないし。


 子供は、ライトブラウンのショートヘアーで、痩せて汚れてはいるけれどもかわいらしい顔をしていた。大きなヘーゼルの瞳は、小鹿のようだ。

 女の子みたいにかわいい顔が、ニッと笑う。

「あんた、ガキすぎて、お色気のかけらもないけど……気立てはいいよね……おまけしてやらあ」


 おまけ?


 何をする気なのか問う暇すらなかった。


 子供は風のように走り、すれちがいざまにアタシの頬に軽く唇を合わせていったのだ……

 


 胸がキュンキュンした。



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと九十三〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



 それからが、たいへんだった。

 駆け抜けてゆく子供に、ジョゼ兄さまが殴りかかり、クロードが杖を向けた。

 しかし、子供は二人を楽々とかわした。

 で、笑いながらジャンプしようとしたんだけど……見事に転んだ。

 足に杖を投げつけられ、バランスを崩しだのだ。

 クロードの手から杖を奪い、投げたのはアラン。

 子供は、またしても、アランに逃亡を阻止されたのだ。


 んでもって、アランが再び子供を羽交い絞めにする。


 兄さまは子供をぶん殴りたそうだったけど、それはアタシが止めた。

 ジョゼ兄さまが本気で殴ったら、その子、死んじゃうし。

「ジャンヌはその子供に萌えた。それはもう仲間だ、手は出すな」

 と、お師匠様も兄さまを制してくれた。



 再び目隠しをしたアタシは、ジョゼ兄さまに手をひかれ、占いの館のドロ様のお部屋に連れて行かれた。みんなも、スリの子供も一緒だ。


「ようこそ、占い師アレッサンドロの館へ、勇者さま、賢者さま、お仲間のみなさま。何だ、リュカ、おまえも一緒なのか?」


 リュカ?


 ここにはアタシ達しか居ないんで、目隠しは取っていい事になった。


 テーブルのとこに、ドロ様が座っている。

 スリの子供が、顔を布でゴシゴシと拭いていた。

 子供の背後にはアラン。逃がさない為かな?


「なるほど……強い大きな星に惹かれちまったわけか。フフッ、お嬢ちゃんに魅せられた星……一つは、おまえだったのか」


「ドロ様、この子と知りあいなんですか?」

 と、アタシが尋ねると……

「ドロ様ぁ?」と、ゲラゲラとスリの子供は笑い、

「お嬢ちゃん……アレッサンドロなら、愛称はアレとかアレックスじゃねえか?」

 ドロ様はやめてくれと、ドロ様がちょっぴり苦々しい笑みを浮かべる。

 う〜ん、確かに、そうなんだけど、アレックスって顔じゃないのよねえ。ドロ様のが、しっくりくる。


「このガキの親父と、ちょいとした知り合いでね……顧客の一人でもある」

 しつこく笑い続ける子供を、ヘッドロックしながらドロ様が言う。


「ったく、わけわかんねえ」

 ドロ様の腕から逃れた子供が、テーブルに布と化粧落としの瓶を置く。ドロ様に借りたモノのようだ。

 あれ? やつれた感じがなくなった。

 細いことは細い。けど、肌は日焼けしてるし、顔はイキイキしてる。健康そうだ。


「この女についていかなきゃいけない気がする。本気で逃げようって気になんねえ。どーいう事?」

 子供の質問に、ドロ様がフッと男くさい笑みを浮かべて答える。

「運命の星に出会ったのさ。その巨大な星を守り、共に戦うのが、おまえさんの宿命……」

「うさんくさいお告げはいらねえ。真実だけ教えてくれ」


「リュカ、ようするに、おまえは、勇者さまの仲間になったんだよ。魔王戦が終わるまで、おまえは勇者のしもべとして働く運命となったのさ」


 リュカと呼ばれた少年が、眉をしかめ、アタシをジロリと睨む。


「あんたが勇者なわけ?」

「ええ、勇者ジャンヌよ」

 

「オレを何日、拘束する気?」

「魔王戦は九十五日後よ。その日に、一緒に戦ってもらうわ」


「九十五日後ね……今日も含めると九十六日もオレを拘束するわけだ」

 リュカがニッと笑う。何というか……ふてぶてしい表情。


「オレ、一流なんだ。高いぜ?」

「へ?」


「そうだな……日当は一万にまけてやる。その代り食事と宿代はあんた持ち。仕事の分け前は、七三でどう?」


「七三?」


「お宝の分配だよ。あんた七でオレ様が三。冒険途中で宝箱との出会いもあるだろ?」


 リュカが胸元に手をあてた。


「大盗賊ギデオンの跡取りを抱えるんだぜ? それ相応のモノ、払ってもらわなきゃな」


 大盗賊ギデオンの跡取り……?


「そいつが優秀なのは本当だよ」

 フフッとドロ様が笑う。


「ギデオンに仕込まれたから、錠前破りはお手のものだし、スリの腕もなかなか。ダガーで戦っても強いぜ。軽業師みたいに身軽だから、お貴族様の御屋敷にも難なく忍びこめる。若いけど、超一流の盗賊だ」


「完全に犯罪者じゃないですか!」と、叫んだのはテオだった。

「警備兵につきだすべきだったんです!」


 リュカは、そんなテオをフンと鼻で笑った。

「もう遅いよ。オレ達仲間だろ、メガネのお坊ちゃん。お貴族さまなんだっけ? オレが牢屋に入ったら、勇者様が困るぜ。九十五日後に戦力が減っちゃうもん」


 テオが唇を噛みしめて黙る。

 黙る代わりにアタシを睨む。

『見た目に騙されて、犯罪者を仲間にして! 本当にあなたは馬鹿ですね!』と、その目は主張していた。

 しょうがないじゃない、萌えちゃったんだから……


「盗賊は、仲間にいれば心強いジョブだ」

 と、お師匠様。

「その素早さを生かして情報を集めてもらってもよいし、勇者や仲間達の装備を探す旅に出てもらってもいい。盗賊がいれば我々の旅は楽になるだろう」


「お。わかってんじゃん、おにーちゃん」

 リュカは明るく笑って、お師匠様の背中をバンバン叩いた。


 う。


 さすがに……

 周囲の空気が凍る。


 賢者様にその態度は……


 アタシはごくりと唾を飲み込んだ。


 お師匠様はいつもと同じ無表情で、リュカを見つめる。


「だが、おまえやアレッサンドロが言うほど、優秀なのか疑問ではある。おまえはアランに捕まったしな」


「捕まったのは、生まれて初めてだよ!」

 リュカが声を荒げ、背後を指さす。そこにはアランがいる。


「この露出狂、バカだけど、ハンパなくすごいよ! 刹那のスリ技を見切って、神速のオレ様を二度も捕まえたんだから!」


「露出狂ではない!」

 アランにぎゅっとされ、リュカは悲鳴をあげた。

 マッチョなアランに背後から強く抱きしめられる、小柄なリュカ。

 これって何か……

 ちょびっと危ない感じ……

 アラン、ほぼ裸だし。

 ドキドキしちゃう。


「わかった! 取り消す、露出狂じゃない! 厄除けスタイルなんだよな!」

「わかれば、よろしい」

 アランが手を離し、リュカが転げるように腕から逃げ出す。


 つかまれてた体をさすりながら、リュカが不審そうにアランを見る。


「その厄除けスタイルって……もしかして、すすめたの、そこのモジャ髪男か?」


「アレッサンドロ殿の勧めだ」

 アランが右手を握りしめる。

「おかげで、運気が上昇し、勇者仲間となれた。アレッサンドロ殿の言う通りにしてよかった」


「な、わけねーだろ!」

「そんなわけないでしょ!」

 二つの声がハモる。


「あんた、この占い男にだまされてるんだよ!」

「あなた、この占い師に騙されているんです!」


 ほぼ同時に叫んだ二人は、顔を見合わせ、フンと反対方向を向いた、

 仲が悪いわねえ、リュカとテオ。

 気は合ってるけど。






 そんなわけで、アタシはリュカを雇わなきゃいけなくなった。

 報酬は魔王討伐後って言ったら、『駄目。あんた、魔王戦で死ぬかもしれない。とりはぐれるのはヤだから、その前にちょうだい』って言われた。

 かわいくなーい!

 おばあ様に頼むってジョゼ兄さまが言ってくれたけど、断った。兄さまのおばあさんに払ってもらうのは、筋違いだと思う。


 で、これから、リュカも連れて、ドロ様の案内で仲間候補の二人に会いに行く。



 魔王が目覚めるのは、九十五日後。

 今日の分も含めた日当分が九十六万ゴールドかぁ……

 どーしよう。



* * * * *



『勇者の書 101――ジャンヌ』 覚え書き


●男性プロフィール(№007)


名前 リュカ

所属世界   勇者世界

種族     人間

職業     盗賊

特徴     明るくて生意気。

       スリも錠前破りも泥棒も一流みたい。

       今まで捕まった事はなかったのに、

       アランに二度も捕まった。

       アタシのほっぺにチュしやがった。

戦闘方法   ダガー

年齢     十四

容姿     ライトブラウンのショートヘアー

       ヘーゼルの瞳(緑がかった茶色・淡褐色)

       小柄で細いけど、日焼けしてて健康そう。

口癖    『バカだろ!』

      『あんた、だまされてるんだよ!』

好きなもの  お金

嫌いなもの  警備兵

勇者に一言 『オレ、一流なんだ。高いぜ』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ