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逆ハーレム100(旧)  作者: 松宮星
勇者世界
4/16

天才魔術師、現る? 【クロード】

 アタシは『異性しか仲間にできない勇者』って、事にした。

 バカ正直に『百人の伴侶を探してる勇者でーす! 男の人、集まってくださーい!』なんて言ったら……

 問題ありすぎだもんね……うん。


 今日は、お師匠様の移動魔法で、魔術師協会に行く。


 ジョゼ兄さまも一緒。外出時には、金髪のくるんくるんのカツラを被る。外出着も貴族らしく派手。

 兄さまは美男子だけど濃い目の顔だから、似合ってるか微妙なのよね。特に、金髪のカツラ。

 正直にそう言ったら、俺もそう思うとの答え。

 着けたくないんだけど、被らないとおばあさんがうるさいんだそうだ。

「全身美容、化粧、爪の手入れで、毎日、何時間も拘束される。男の見目などどうでもよかろうに。貴族は実にくだらん」

 身軽な格好で、一日中、格闘の修行がしたい、と兄さまはため息をついた。


 魔術師協会の広間には、協会長が有能な魔術師を集めておいてくれるって話。

 で、ワクワクして行ったんだけど……


 期待はずれ!


 萌えなきゃ仲間にできないのよ!

 広間に居るの、ヨボヨボのおじいさんばっかじゃない!

 しかも!

 渋〜い、かっこいいおじい様ならばともかく……

 頭が薄い人とか、太った人とか、ガリガリだとか……

 無理! 無理! 無理!

 萌え要素なさすぎ!


 もうちょっと若い方いません? って協会長さんに聞いてみた。白髭の、見るからに魔術師っておじいさんだ。


「では、五十代の魔術師を」

 いやいやいやいや!

「できれば、十代! 無理なら、二十五以下で!」

 十六のアタシの伴侶だもん、年が近い方がいいよ。

 すっごくすっごく格好よければ、オジさん、おじいさんでもいいけど。


「そんな若い魔術師では、ろくな魔法が……」

 と、言いかけてから、おじいさんはポンと手を叩いた。


「いや、一人おりましたな、若くて優秀な者が」

 お?


「まだ正式な魔術師ではないのですが、たいへん才のある男性です。十年に一人、いえ、百年に一人現れるか現れないかの逸材です、天才です」

 おお!


「魔術師学校の高等部の学生なのです。十八歳の若輩ですが、たいへん優秀で、もう一通りの魔法が使えるようです。魔力も豊富ですし、きっとお役に立つでしょう」

 おおお、十八歳!


「由緒正しい侯爵家の嫡男で、剣技にも優れた、礼儀正しい方で……」

 おおおおお!



 お師匠様にねだって、魔術師学校に移動魔法で跳んでもらったのは言うまでもない。



 跳んでった先は、校長室だった。

 侯爵家の貴公子さまのクラスは、授業中だった。

 そのへんをぶらぶらして、時間を潰す事にした。


 山ん中にひきこもってたから、学校も十年ぶり。

 ちょっと中を歩いてみたかったの。

 

 廊下は、天井も床もツルツルのピカピカだった。何処かに魔法の光源があるらしく、窓もないのに、やけに明るかった。

 授業中なんで、廊下には生徒はいなかった。


 玄関の脇から隣の校舎に向かう、渡り廊下にさしかかった時。

 元気な声が、校庭の方から聞こえた。


「ファイあー」

「ファいヤー」

「ふぁイアー」


 花壇の向こうで、横一列に並んだおチビちゃん達。手に構えた棒を前へとつきだし、呪文を叫んでいる。

 十才ぐらいのクラスだろうか。全員、地味な灰色のローブ姿。

「集中! 集中!」

 子供達の後ろを歩いているのは、先生だろう。ローブは黒で、杖頭に宝石のついた立派な魔術師の杖を持っている。

 

 中には、前方にちっちゃな炎を発生させてる子もいる。一瞬だけで、すぐ消えちゃうけど。


 列の端っこに、子供じゃない人がいる。

 子供達と同じ灰色のローブを着てる所を見ると、お手本を見せる先生ってわけじゃなさそう。

 右手に持ってるのも、木を削っただけの杖だし。


「ファイアー!」

 かけ声は立派なものの、前方の空気はただゆらめくだけ。熱は発生しているようだけど、炎となっていない。


 ローブのフードから髪が、こぼれる。めったにいない特徴的なあの髪の色は……


「ん?」

「あ?」


 アタシとジョゼ兄さまは、同時に声をあげた。


「クロード?」


 どう見ても子供じゃない生徒が、アタシ達の居る渡り廊下へと顔を向ける。ストロベリーブロンドの髪に、緑の瞳、すらりとした鼻、形のいい唇。

 ちょっと見、女の子みたいなかわいい顔。だけど、


「ゲ」

 顔に似合わない声を漏らし、

「ジャンヌに、そっちの金髪はジョゼかよ? どっからわいて出たんだ、おまえら!」

 と、乱暴な声でアタシ達を怒鳴りつける。


 間違いない。

 クロードだ。

 アタシ達が子供の頃、よく遊んだお隣さん。

 オジさんがパパの商売仲間だったんで、家同士の付き合いだった。


 先生は授業を中断した。アタシ達の中にお師匠様が居たから、敬意を表したみたい。知らなかったけど、お師匠様のローブは賢者専用のモノらしい。髪と同じ白銀色。綺麗だとは思ってたけど、特殊装備だったのね。


 先生も子供達も目を輝かせて、お師匠様に群がる。


 あのぉ……

 勇者はアタシなんですけど……

 無視ですか……?


 アタシとジョゼ兄さまの前には、クロードしか来てくれなかった。あとは、様子をうかがっている子供が数人。


 クロードが、フードを外し、ボリボリと頭を掻く。あいかわらず、綺麗なストロベリーブロンドだ。うらやましい。

「ジャンヌ、おまえが人里に出て来たって事は……魔王が現れたってわけだな?」


 勇者見習いとして家を出る前、アタシはお隣のクロードにもお別れを言った。

『おまえが勇者? 嘘だろ! 最悪。この世はもう終わりだな』と、クロードは呆れたように言った。

『魔王が現れるまで、山ン中にこもるのかよ? へぇ〜 ま、おまえみたいなバカのお守り、あきてたし。せいせいする。とっとと、行っちまえよ』

 クロードはそっぽを向きながら、憎まれ口をきいて、アタシを送ったんだ。

 よく覚えている……


「昨日、手紙を出しておいた」

 ジョゼ兄さまが、背後からいきなりアタシを抱きしめる。

「昔、伯爵家にひきとられる時、約束したものな。ジャンヌが勇者として旅立つと知ったら、おまえにも教えてやると」

 兄さまが、すりすりと顎をアタシの頭に押しつけてくる。ちょっと痛い。

「この通り、俺のジャンヌは勇者となった。これから共に魔王退治の旅をするのだ」

「ふーん、そう。……あいかわらず、仲いいわけだ、おまえら」

 クロードが、アタシと兄さまに順にジロジロと見る。そうね、昔と一緒。兄さま、スキンシップが好きなのよね、やたら、アタシにくっついてくる。

「まあ、一応、礼を言っとく。約束通り、知らせてくれてありがとな。けど、オレ、今、寄宿舎住まいなんだ。めったに家に帰らない。手紙、多分、半月先ぐらい気づかなかったと思うわ」

「別に構わん」

 ジョゼ兄さまが偉そうに答える。仲が悪いわけじゃないんだけど、この二人、昔っから、ちょっと喧嘩腰なしゃべり方するのよね。


「魔王の出現、知らないの?」

 と、尋ねると、クロードが唇をとがらせた。

「あったりまえだろ、バーカ。百日間、魔王は寝てるだけで、何も悪さをしないんだ。国のトップは、当分、事実を隠ぺいする。今、広めたところで、国民の不安を煽るだけで何の実益もない」

「なるほど」


 クロードが、フンと鼻で笑ってアタシを見る。

「あいかわらず、バカだな。ちょっと考えれば、子供だってわかるのに」


 む。


 一方的にバカバカけなされるのも面白くないんで、こっちから質問した。

「何で、子供のクラスに混じってたの?」


 クロードがグッと喉をつまらせ、鼻の辺りを赤くする。

「べ、べつに、どーだって、いいだろ! おまえに関係ないし!」

 なんだ、昔から変わってない。照れると鼻の頭のとこばっか赤くなるの。


「さ、最近、魔法の、魅力に、き、気づいただけだ! ちょっと、スタートが遅かったけど……オレ、才能あるから! すぐにトップ・クラスに追いつくし!」


「ねえ、あなた」

 と、さっきからアタシをチラチラ見てた子供が近寄って来た。こまっしゃくれた感じの、そばかすだらけの赤毛の女の子だ。

「クロードのおさななじみ?」


 アタシが口を開くよりも早くクロードが口をはさむ。

「おい、エメ、何を」

「クロードはだまってて。あたし、そこのおねえさんに聞いてるの」

 十才ぐらいの子供に呼び捨てにされてるし、クロード。


 アタシはジョゼ兄さまから離れ、赤毛の女の子に対し頷いた。

「そうよ、アタシはクロードの幼馴染。ジャンヌよ」


「なら、あなた」

 エメって呼ばれた女の子が、ふぅと溜息をつく。

「バカな男を拾ってあげてくれる?」


 は?


「あなたのタメに、このバカ男、剣だ、格闘だってきて、今度は魔法なのよ。家業の手伝い、全然、しないでよ。オジさん、もうカンカンなんだから」


 へ?


 よけいなことは言うな! って叫ぶクロードを、男の子が四人がかりで押さえつける。エメって子のボーイフレンド?


 エメは、クロードのいとこなのだそうだ。


 アタシが勇者見習いとなってから、クロードは……

 ひたすら、体を鍛えてたそうだ。家業の手伝いを放り出し、見合いも断り、剣や格闘を習い続け……

 この春からは、魔法学校に入ったのだそうだ。

 普通六〜十才で入学する学校に、十七にもなって入学したわけ。初等クラスで、う〜んと年下の子供達と混ざって勉強するとわかっていて。

 それというのも……


「このバカ男、占い師に、魔法を習えってそそのかされたのよ。『おさななじみを本気で助けたいのなら、魔法使いになるしかない』って勧められたらしいの。ほーんと、いやになっちゃう。バカよね。それで、その気になって」


「やめろ!」

 クロードが叫ぶ。

 鼻のあたりを真っ赤にして。わなわなと体を震わせ、アタシを睨みつける。


「ご、誤解すんなよな! お、おまえの為じゃないから! 世界の平和の為だから! 世界の平和の為に、勇者の仲間になりたくて! そ、それで、がんばってきただけなんだからな!」


 真っ赤なお鼻のクロードを見つめているうち……



 胸がキュンキュンした。



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴った。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まったような、このまえジョゼ兄さまを仲間にした時と同じ感覚がした。


《あと九十八〜 おっけぇ?》

 と、内側から、声がした。神様の声だ。



「新たな仲間か……」

 お師匠様が、大きく溜息をついた。

 お師匠様には、仲間欄が丸見えみたい。


 ジョゼ兄さまは、「クロードが仲間か……」と、チッと舌うちをしていた。

 何で?






 クロードを仲間に加えてから、魔術師協会推薦の天才魔術師と会った。休み時間に高等部の教室へ行ったの。

 見るからにお貴族様って感じの、すっごいハンサムだった。金の巻き毛もゴージャスな、美男子(イケメン)! 柔らかな物腰で、優しそうで、まるで王子様みたい……


 アタシの胸は、キュンキュンどころか、キュンキュンキュンキュンした!


 したんだけど……


「仲間枠に入らんな。完全なジョブ被りだ。仲間にするのは無理だろう」

 と、お師匠様は無慈悲にも言いきってくれた。


「ご縁がなかったのは残念です、美しいお嬢さん。あなたとは、又、違う形で何処かでお会いしたいですね」

 シャルルと名乗った貴公子は、アタシに微笑みかけた。まぶしいばかりに、爽やかな笑顔で……


 あああああ! ス・テ・キ!

 シャルル様……

 こんなに萌えてるのに、仲間にできないなんて……

 ジョブ被りだなんて……

 シクシク……

 天才魔術師と新米魔術師で別枠にしてよ……


 しかし……

 クロードで魔術師枠を埋めちゃって、アタシ、大丈夫なのかしら……?

 自爆魔法コース一直線のような気がする……


 アタシも不幸だけど、クロードも不幸ね。

「クロード君、君は魔術師学校の代表となったのだ。健闘を祈るよ」

 シャルル様に、声援(エール)を送られて、顔をひきつらせていた。

 初級魔法『ファイア』さえ使えないのに、魔術師学校代表になっちゃったんだものね、正しく言えば魔術師協会代表か。荷が重いわよね。

 ま……自爆しないだけ、アタシよりマシだけど……


 さて、校長室に戻って、クロードの休学手続きをして、魔術師協会にも挨拶に行かなきゃ。

 お名残り惜しいけれども、シャルル様とはお別れ。どうぞ、お元気で……

 お貴族様同士知り合いなのだろう、シャルル様はジョゼ兄さまにも親しげに挨拶をした。兄さまは、儀礼的な挨拶しか返さなかったけど。


「クロード、がんばってね!」

 勝手について来てたクロードのいとこの女の子が、手を振って見送る。

「あんまツンツンしすぎちゃ駄目よ! 女の子にはやさしく! ツンデレデレぐらいでいってね!」


 は?


「ツンデレ? クロード、おまえ、俺のジャンヌを、何だと」

 ジョゼ兄さまが、文句を言おうとクロードに近づく。

 が、最後までしゃべれなかった。

「ちがーう!」

 ジョゼ兄さまの左頬に、クロードの右の拳がめりこむ。

「誤解だ!」

 兄さまの大きな体がふっとび、そこらにあった机と椅子が巻き込まれて倒れてゆく。

「オ、オレはジャンヌなんか、な、何とも思ってない! ただの、幼馴染、だ!」


 うわ。

 照れてそこらにあるモノにあたるのは、あいかわらず。


 クロードがキッ! と、アタシを睨む。

「せ、世界平和の為に戦うんだからな! お、おまえの為なんかじゃない! 誤解するなよな!」


 はい、わかっております。

 逆らいません。

 これ以上、暴れられたら困るから。

 女の子には暴力ふるわないんだけどねー。

 側にいるもんだから、昔は、やたらと、ジョゼ兄さまが犠牲になってたのよね。



 教室から去りゆくアタシ達。その背後で、女生徒達はひそひそ話をしていた。

『ツンデレよ……』

『あれが噂に聞く、ツンデレね……』

『わたくし、初めて見ましたわ』

『萌えますわね』

『ツンデレ魔術師……かわいいわ〜』

『シャルル様がかなわないわけですわね、相手がツンデレ魔術師では』


 クロードは振り返り、鼻の頭を真っ赤にしながら背後の女学生達を睨みつけた。


「ツンデレじゃねーよ!」






 そんなわけで、ツンデレと噂の魔術師が、仲間に加わった。


 魔王の目覚めは……九十九日後。

 クロードが役立たずな分……どっかで強い味方を仲間にしなきゃな。 



* * * * *



『勇者の書 101――ジャンヌ』 覚え書き


●男性プロフィール(№002)


名前 クロード

所属世界   勇者世界

種族     人間

職業     魔術師

特徴     幼馴染・意地っぱり・照れ屋。

       ツンデレらしい。新米魔術師。

       すぐ怒るし、すぐ殴るけど、

       女の子には暴力をふるわない。

       ジョゼ兄さまがよく被害に遭う。

戦闘方法   魔法(でも、初級魔法も使えない)

       杖や拳で殴る方が強いわ

年齢     十七

容姿     ストロベリーブロンドの髪、緑の瞳

       女顔。

口癖    『ツンデレじゃねーよ!』

      『バカ』『バーカ』

好きなもの  リンゴ

嫌いなもの  ピーマン(だったはず)  

勇者に一言 『ツンデレ言うな!』

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