夏、醜い、私。
「ねぇ、明日の事なんだけど」
「あー祭り?やっと中学の奴等と連絡取れてさ。行けることになりました」
ふわりと笑いながら明日の予定を一つ一つ教えてくる能天気野郎。
出会って早6年。中学1年からなんやかんやで仲良くなり、今や私の彼氏に。
そう、彼氏なのよね?
確かに発破かけて半場無理やり告白させたようなものだけど、それでもちゃんと目を見て真剣な表情で言ってくれたわ。
「好きです」って。
それから特に変わった事はない。ああ、でも手を繋ぐようにはなった。
ほんとはもっとイチャイチャしたり、友達の皆に惚気を言ったり、お家にお邪魔したり・・・。
でも私達の関係はヒミツ。そのことについては同意したわ。
2人ともからかわれたり冷かされるのは嫌だから。
それでも、コレはないと思わない?
「・・・・翔太や創平達と行くの?」
「ん。日にちが合ってよかったわ。高校違うから中々予定会わなかったんだ」
「そう。楽しみすぎてはしゃがないようにね」
「はしゃぐのはあいつらだって」
素敵な笑顔。
無口な人だけど、私と心を開いた人には少しばかり饒舌になる。
高校の人たちには数人だけだ。その数人の中に私が含まれているの。そのことにいつも優越感を覚えているの。
なんて醜悪な女なんでしょう。
なんて嘘吐きな女なんでしょう。
本当は二人っきりで行きたいのに、でもそれが嫌だから中学の奴等を誘ったのでしょう?
それにそんなことを言って重いだのなんだの言われたらショックすぎてこの夏休み、なにも楽しめなくなっちゃう。
なんて最悪な女なんでしょう。
なんて卑下たる女なんでしょう。
6年一緒で、なんでもあなたに出来ると思っていたのに。関係が変わっただけで臆病になってしまうなんて。
母から言われた言葉が脳裏をよぎった。
「あなたは変なところで遠慮するのね。そんなんじゃ本当に欲しいものが手に入らないんじゃないかしら。女はもっとぐいぐいいかなきゃ。」
ぐいぐい行ってめんどくさいって思われたら?迷惑だって思われたら?
6年たってやっと片思いから両思いにやっとなったのよ?
変な一言でこの関係をぐちゃぐちゃになんかしたくない。
私は笑いながら話題を広げる。
「私もしばらく会ってないなー。元気そうだった?」
「たぶんな。元気だけが長所な奴等だし」
「確かに。それが短所でもあるけど」
「明日言っといてやろ。お前は祭り行かないの?」
心臓に冷たいアイスをこぼされた感触がした。
脳に直接蝉の鳴き声が響いた感覚がした。
口がスポーツドリンク、または麦茶を所望している。
目の前が入道雲に覆われたようになった。
早く、重くもめんどくさくも迷惑だとも思われない、あなたの彼女にふさわしい解答を出さなければ。
「どうした?」
「、もちろん高校の友達と行くの。浴衣は着ようかどうか悩んでるとこ」
「浴衣か。見てみたいな」
「きっと出会わないわ。毎年人ごみがすごいもの」
これくらいの嫌味、許してよ。
なんて、内心は嫌味だと気づかれませんようにとビクビク怯えている。
けれど彼はそうだな、と至って普通に返してきた。
ムカムカする。
どこが、とは分からない。ううん、もしかした全身がムカついているのかもしれない。
ムカムカ、イライラ、シクシク。
「どっか痛いのか?それとも体調悪い?」
心の中を読まれた。
弁解しようとするとなにか塩辛いものが口の端から伝わってきた。
「なんで泣いてんだよ」
驚愕と焦り。目には心配の色。
優しい人。
こんな醜悪で嘘吐きで最悪で卑下な女を傍に置き、なおかつ心配する時間さえ与えてくれるなんて。
私は幸せ者だ。
なのに祭りごときで嫉妬してしまうなんて。つくづくあなたの彼女にふさわしくないわね。
きっと別れた方があなたの為になるの。
もっと可愛くて気立てがよくて心も性格も綺麗で、あなたに愛される資格のある人がいいのよ。
私なんかじゃ役不足。
「・・・・ごめんなさい」
「なに謝ってんの。とりあずそこに座ろう。なにあったのか言ってみ?俺なんか傷つけること言ったのかな?それならちゃんと謝るから」
あなたが謝る必要なんて1つもないの。
そんなに慈しむように頭を撫でないで。そんなに慈愛に満ちた声色で私の名を呼ばないで。
ポロリと落ちる涙は、木陰にかかっているアスファルトに叩きつけられてシミを作った。
結局、私の本音はシミとともに蒸発していった。
仕方がないのだ。そうしないと私は愛されない。
あなたの傍に居れるなら、全て偽りで塗り固めるから。
どうか、どうか。
嫌いにならないで。




