踊り子の夜 〈2〉
物寂びた管楽器の演奏に合わせて、ショールを翻しながら、踊り子は舞う。
出だしは踊りながらステージを回る。鳥の羽のようにショールを広げて、時折クルリと身を翻しながら、ステージを回る。
ただ水平にショールを振るだけでなく、上下に、斜めに、体をしなやかに折り曲げつつ、ステージに舞う。
その踊りの合間合間に見え隠れする、ショールの下に隠された肢体に観客の目は熱く、卑猥に注がれる。下半身には、どうやら真っ白なスキャンティを履いているようであった。
やがて、踊り子はステージの中央に立った。そのまま跪くと、けだるい仕草で身を横たえた。舞台の上で横たわったまま、仮面の踊り子は卑猥に身をくねらせる。ショールのに隠された豊潤な肉体が今どのような姿勢をとっているのかは客席からは見えないが、それだけで観客たちは大いに興奮をそそられるようであった。
音楽の調子が変わってきていた。今までは、流れるように断続的な管楽器の演奏だったのが、打楽器による、途切れ途切れの響きに変わってきていた。
踊り子は座り込んだまま後ろに手をついて上を見上げた。身を反らすようなポーズを取ると、ショールを押し上げて物凄い乳房の量感が露わに見せ付けられる。その姿勢のまま、打奏音の間を縫うように両脚が交互に振られ、履いているヒールも脱げかけている。そのうち、右足のヒールを勢い良く蹴り脱いだ。続いて、左のヒールも蹴り飛ばした。
観客が、おお、とどよめいた。
相変わらず後ろに手をついたまま、踊り子は天井を見上げていた。そのまま波打つように身をうねらせ、両足をすぼめるように内股の姿勢になる。その、官能的な一挙手一投足に、観客の目は釘付けである。
揺らめく灯火に浮かび上がるその姿は、この世のものならぬ幻想的な情感に満ちているように見えた。
踊り子が右脚のストッキングに手を掛けた。そのまま引っ張ると、ストッキングは伸びてゆく。その間も、観客は息を搾り出すようにどよめいた。踊り子が、右脚のストッキングを脱ぎ捨てた。しばらく、そのストッキングをもてあそび、振り回したりした後に、遊び飽きた子供のように放り出した。そうして、左のストッキングも脱いだ後は同様のプロセスを経て、投げ捨てる。
続いて、露わになった美脚を掌で撫で、玩びながらその感触に統帥するような仕草で何度も愛撫を繰り返した。太ももからふくらはぎに掛けてをしなやかな指と掌で撫で回しつつ、肩をすくめたり身もだえしながら息を乱し、辛うじてその甘美な感触を堪えているかのようであった。
多数の目にさらされ、好色な視線の只中で無心な自慰行為に耽るような姿は、淫蕩であると同時に不思議なあどけなさを感じさせる。
やがて、最後の絶頂を迎えたかのようにのけぞりながら大きな溜め息をつくと、今一度ステージの中央で立ち上がった。
しばら俯きながらく、踊り子は息を殺すように佇んでいる。その間も少し筒向きを変え、全ての客席から観える様にと緩慢に回り続けていた。何か踏ん切りがつかずに迷っているような仕草だった。
そうして、躊躇いを振り切るような気配を漂わせながら、顔を上に向ける。
踊り子は、大きく一呼吸置いてから、ショールの下で肘を曲げるような格好になった。
両手を腰にあてがっているようであった。
踊り子は少しばかり前かがみになると、左膝を上げた。
ショールの端から何か、白い布と思しき物が覗く。
客席全体が、息を呑むように静まり返った。ショールの下で如何なる行為が為されているのかを想像して、全員がその挙動に注目しているようである。
その、切羽詰った沈黙の真っ只中で、踊り子はその作業を続ける。
右膝を上げて、踊り子は両腕を動かしていた。
やがて、それが終わり、踊り子は再び静かに立ち尽くしている。
観客は、次に何が起こるのか、一瞬たりとも見逃すまいと言うように食い入るような目線を舞台に取り残されたようなたたずまいの踊り子に注いでいた。
踊り子は、静かに動き出した。