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等々力の巫女、戦国を征く  作者: 双鶴


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第30話 落城の空、祝福の風

初夏の空はどこまでも澄み渡り、

その青さがかえって胸を締めつけた。


「小田原……落城」


清正が読み上げた文は、

短く、重く、そして静かだった。


北条家は降伏し、

長き関東の秩序は終わりを告げた。


雅信は深く息を吐いた。


「……これで、

関東は……豊臣のものに」


早苗は静かに目を閉じた。


(分かっていた。

だが……

胸が痛む)


北条の滅びは、

関東の古い時代の終わりだった。



その日の午後。

等々力の山道に、

二人の使者が現れた。


一人は豊臣家の使者。

もう一人は徳川家康の使者。


二人は拝殿の前で深く頭を下げ、

それぞれの文を差し出した。


「御使い様……

これは……」


清正が震える声で読み上げる。


『橘神宮、

その協力の心、まことに悦ばしきこと。

武器と食糧の供出、

軍勢の宿舎提供、

いずれも見事である。

ここに感状を贈る』


秀吉の花押が、

金色の光を帯びていた。


続いて、家康の文。


『等々力橘神宮、

その働き、

まことに比類なし。

この地を守りしこと、

我が軍の助けとなった。

深く感謝する』


雅信は思わず息を呑んだ。


「御使い様……

秀吉公と家康公、

双方から……!」


早苗は静かに頷いた。


(これで……

等々力は守られた)



それから数ヶ月後。


秋の風が渓谷を渡る頃、

再び二つの文が届いた。


一つは豊臣秀吉から。

もう一つは、

関八州の領主となった徳川家康から。


清正が声を震わせながら読み上げる。


『橘神宮、

その社領、旧来のまま安堵す』


雅信が続ける。


『橘神宮の地、

今後いかなる戦乱あろうとも、

決して侵さぬ』


その言葉は、

まるで神の祝福のようだった。



村人たちは、

その知らせを聞いた瞬間、

歓声を上げた。


「御使い様……!

橘神宮が……守られた……!」

「秀吉公も、家康公も……

味方に……!」

「これで……

等々力は安泰だ……!」


涙を流す者もいた。


抱き合う者もいた。


子どもたちは走り回り、

老人たちは空を仰いで手を合わせた。


早苗は、

その光景を静かに見つめていた。


(よかった……

本当によかった)


胸の奥に、

温かいものが広がっていく。



夕刻。

渓谷に秋の光が差し込み、

竹筒が柔らかく鳴った。


「コト……コトン……」


その音は、

まるで神々が祝福を告げるようだった。


早苗は拝殿の前で、

静かに祈りの姿勢をとった。


「……どうか、

この地がこれからも、

平穏でありますように」


風が吹き、

榊の葉が揺れた。


等々力の巫女、橘早苗。

その知恵と祈りは、

戦乱の時代を越えて、

村に確かな未来をもたらした。


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