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等々力の巫女、戦国を征く  作者: 双鶴


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第24話 静かな勝利、囁く影

春の風が、吉良家の陣を優しく撫でていた。


その風は、

戦の終わりを告げるように、

どこか柔らかかった。


「敵方、城門を開いたぞ!」


その声が陣中に響いた瞬間、

等々力の男たちは互いに顔を見合わせた。


(……終わったのか)


籠城していた相手方は、

ついに兵糧が尽き、

戦わずして降伏した。


血は流れなかった。

等々力の兵も、誰一人欠けることなく無事だった。


弥六は胸元の護符を握りしめた。


(御使い様……

本当に……守ってくださったのか)


護符の紙は、

朝の光を受けてわずかに透き通り、

まるで“息をしている”ように見えた。


その姿を見た若者が呟いた。


「……御使い様の護符は……

本当に、神の力が宿っているのでは……」


その言葉は、

陣中に静かに広がっていった。


兵部でさえ、

護符を見つめる目に、

昨日までの嘲りはなかった。


「……侮れぬ。

あの巫女は……ただ者ではない」


左京は静かに頷いた。


「心を守る者は、

戦をも変えるのです」



同じ頃――

等々力の渓谷。


早苗は、

水源近くに仕掛けた“動物用の罠”を見に来ていた。


鹿や猪を捕らえるための、

古くからある“落とし罠”。


だが今日は、

その罠が“別のもの”を捕らえていた。


「御使い様……

罠に……人が」


清正の声は震えていた。


罠の底には、

黒装束の男が倒れていた。


足半を履き、

腰には短刀。

顔には布。


まさに“忍び”の姿。


男は気を失っていたが、

呼吸はある。


雅信が低く言った。


「御使い様……

これで確かになりました。

村を狙っていたのは……

忍びにございます」


早苗は罠の縁に膝をつき、

静かに男を見下ろした。


(あなたが……

この村を揺らそうとしていたのね)


だが、

怒りよりも先に胸に広がったのは、

冷たい決意だった。


「……この者を、

誰にも悟られないように運びましょう。

吉良家にも、

他の領にも知られてはいけない」


雅信は息を呑んだ。


「御使い様……

それは……」


「この村を守るためよ。

敵の正体を知るのは、

私たちだけでいい」



その夜。

吉良家の本陣では、

等々力の兵が無傷で戻ったことが話題になっていた。


「等々力の者は……

誰一人欠けておらぬのか」

「護符だと?

巫女の力だと?」

「そんなもの……

吉良家の威光より上に立つつもりか」


嫉妬の声が、

静かに広がり始めていた。


左京は眉をひそめた。


(……これは、良くない)


兵部は黙って酒を飲んでいたが、

その目は鋭かった。


「巫女を侮るな。

あの者は……

戦を変える力を持っている」


だがその言葉は、

嫉妬に曇った者たちの耳には届かなかった。



等々力の夜。


早苗は、

捕らえた忍びを隠した小屋の前に立っていた。


月の光が、

静かに村を照らしている。


(敵は捕らえた。

でも……

これで終わりじゃない)


水源の結界は強化され、

竹筒の音は増え、

火の守りもさらに整えられた。


だが、

それらはすべて“悟られないように”配置されている。


薪棚の裏に隠された砂袋。

井戸の影に置かれた水桶。

畑の端に埋められた杭。

夜風で鳴る竹筒。


どれも、

“生活の一部”に見える。


早苗は静かに呟いた。


「……守りは、

見えないほど強いものよ」


風が吹き、

竹筒が鳴った。


「コト……コトン……」


その音は、

まるで村そのものが息をしているようだった。


等々力の巫女、橘早苗。

その知恵は、戦を終わらせ、

影を捕らえ、

そして村を“見えない砦”へと変えつつあった。

だが――

吉良家の嫉妬という新たな影が、

静かに迫り始めていた。


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