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等々力の巫女、戦国を征く  作者: 双鶴


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第21話 水面に落ちる影

夜明け前の渓谷は、

まるで息を潜めているかのように静かだった。


薄い霧が水面を覆い、

木々の影が揺れ、

鳥の声さえ遠くに感じられる。


早苗は、

水源へ向かう細い山道を歩いていた。


(……水は、村の命。

ここを狙われたら、すべてが終わる)


昨日見つかった足半の跡。

忍び縄。

黒い布。


それらが胸の奥で冷たい重みとなっていた。



水源に着くと、

朝の光が水面に落ち、

揺らめく金色の模様を作っていた。


その美しさに、

早苗は一瞬だけ息を呑んだ。


(……守らなきゃ。

この静けさを)


だが、

その静けさの中に“違和感”があった。


水面の端――

草が、わずかに踏み倒されている。


昨日の火事の跡とは違う。

もっと軽く、

もっと慎重に踏まれた跡。


清正が駆け寄ってきた。


「御使い様……

やはり、ここにも“足半の跡”が……」


早苗は跡に膝をつき、

指先でそっと触れた。


(軽い……

でも、深さが均一。

迷いのない足運び)


雅信が低く言った。


「これは……

訓練された者の歩き方にございます」


早苗は静かに頷いた。


(やっぱり……

誰かが、この村を弱らせようとしている)



そのとき――

水面が、ふっと揺れた。


風ではない。

鳥でもない。


“何か”が、

水源の奥に触れたような揺れ。


早苗は息を呑んだ。


(……いる)


姿は見えない。

音もない。


だが、

確かに“気配”があった。


水面の揺れは、

まるで影が通り過ぎたように、

静かに広がっていく。


清正が刀の柄に手をかけた。


「御使い様……

誰かが……」


「待って」


早苗は手を上げた。


(ここで追っても、捕まえられない。

敵は“姿を見せないこと”を知っている)


水面の揺れは、

やがて静かに消えた。


まるで最初から何もなかったかのように。



早苗は立ち上がり、

水源を見つめた。


朝の光が水面に反射し、

揺らめく金色の模様が広がる。


その美しさは、

逆に胸を締めつけた。


(この静けさを壊させない。

誰にも)


雅信が静かに言った。


「御使い様……

敵は、火だけでなく“水”も狙っております。

これは……

村を弱らせるための動きにございます」


早苗は頷いた。


「分かっています。

だから――

水源の守りを強くしましょう」


清正が言った。


「見張りを増やし、

水源の周りに“音の出る仕掛け”を作りましょう。

鹿威しのような……

風で鳴る竹筒でも」


早苗は微笑んだ。


「いいわね。

音は、影を暴く力になる」



帰り道、

早苗はふと振り返った。


水面は静かで、

朝の光を受けて美しく揺れている。


だが――

その美しさの奥に、

確かに“影”が潜んでいた。


(来るなら来なさい。

私は逃げない)


風が吹き、

木々がざわめき、

光が揺れた。


等々力の巫女、橘早苗。

その決意は、静かな水面に落ちた影へと向けられていた。

そして――

影は確かに、

村の命を狙って動き始めていた。


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