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等々力の巫女、戦国を征く  作者: 双鶴


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第17話 火の影、揺れる村

山の見張り台から上がった煙は、

夕陽に照らされて赤く揺れていた。


「御使い様!

山の北側に煙が……

火事かもしれませぬ!」


清正の声は震えていた。


早苗は息を呑んだ。


(戦に向かったその日に……

残された者たちに、こんな試練が来るなんて)


だが、胸の奥には静かな決意があった。


「行きましょう。

皆を守らなきゃ」



山の麓に着くと、

焦げた匂いが風に乗って漂ってきた。


火はまだ小さい。

だが、乾いた枝葉に燃え移れば、

あっという間に村へ迫る。


雅信が険しい顔で言った。


「御使い様……

この風向きでは、放っておけば村に……!」


早苗は頷いた。


(ここで、あの“火の守り”が役に立つはず)


「皆さん!

井戸の水桶を持ってきて!

砂袋も!」


村人たちは走り出した。


火の恐ろしさを知っているからこそ、

動きは速い。



やがて、

井戸の周りに常に満たしておいた水桶が運ばれ、

屋根に置いていた砂袋が次々と下ろされる。


「御使い様の言葉がなければ、

こんなに早く動けませなんだ……!」


「砂袋を……ここに!」


「水を回せ!」


早苗は火の前に立ち、

風の向きを見極めた。


(風は北から……

なら、火は南へ流れる。

村に届く前に、ここで止める)


「砂を撒いて!

火の前に線を作るの!」


「は、はい!」


砂袋が破られ、

火の進行方向に砂が撒かれる。


火は砂に触れた瞬間、

勢いを弱めた。


次に、水桶が回される。


「水を、火の根元に!」


「了解!」


水がかけられ、

火はじゅっと音を立てて小さくなった。



だが――

そのとき、

別の方向から叫び声が上がった。


「御使い様!

南の斜面にも火が……!」


早苗は振り返った。


(……二ヶ所同時?

自然火災じゃない……

誰かが火をつけた?)


胸が冷たくなる。


だが、迷っている暇はなかった。


「清正さん!

南の斜面へ!

砂袋を半分持っていって!」


「承知!」


「雅信さんは、ここを抑えて!」


「任せてくだされ!」


早苗は走り出した。


(守らなきゃ……

ここを失えば、帰る場所がなくなる)



南の斜面は、

すでに火が草を舐めるように広がっていた。


だが、

ここには“もうひとつの守り”があった。


薪棚に見せかけて備蓄していた“乾いた木材”だ。


「皆さん!

あの木材を横に倒して、

火の前に並べて!」


「えっ……

燃えるのでは……?」


「いいえ。

乾いた木材は、火がつく前に“火の勢いを吸う”の。

湿った草より、火の進みが遅くなる!」


村人たちは驚きながらも動いた。


木材が倒され、

火の前に並べられる。


火は木材に触れた瞬間、

勢いを弱めた。


その隙に、

砂と水がかけられる。


「今です!

一気に!」


「うおおおおっ!」


火は、

ついに消えた。



火が完全に鎮まったとき、

村人たちはその場に座り込んだ。


「御使い様……

助かりました……」

「もし備えがなければ……」

「村が……燃えていた……」


早苗は胸に手を当てた。


(よかった……

本当に……よかった)


雅信が静かに言った。


「御使い様……

これは、ただの火事ではありませぬな」


早苗は頷いた。


「二ヶ所同時……

誰かが、火をつけた可能性がある」


清正が険しい顔で言った。


「戦に向かった者たちを揺さぶるため……

あるいは、寺社領を弱らせるため……」


早苗は静かに言った。


「どちらにしても……

ここは狙われている」


渓谷の風が吹き、

焦げた匂いを運んでいく。


等々力の巫女、橘早苗。

その知恵は、初めて“火の影”と対峙し、

寺社領を守るための力を示した。

だが同時に――

この火が“誰かの意図”である可能性が、

静かに村を震わせ始めていた。


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