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神狩3

 カイエルが焚き火から目を逸らし、空を見上げると半分に欠けた月と、先ほどまで光を遮っていた雲が見えた。彼はそれを見て空が晴れていること、そしてしばらくは不安定な天気が続きそうなことを理解した。


 マルノは既に眠りに落ち、セラファも夢の中だろう。夜の森に、起きている生き物は自分以外いないのではないか、そんな錯覚を彼は覚えた。


「――ふぅ……」


 詰まりそうになる呼吸を、意識的に深呼吸をすることで身体全体に酸素を送り、眠気を抑える。時折弾ける薪の音は、むしろ眠気を誘う子守歌のような物だった。


「しかし、妙なガキを拾っちまったな」


 セラファのことを考え、独りごちる。


 彼女がいなければ、この旅路はここで終わっていた可能性もある。だからこそ、感謝こそすれ不気味だと思うなんて事はあってはならないのだが――


「ガキとは失礼ね」

「うおっ!? ……っと、起きてたのか」


 いつの間にかセラファは、焚火を見つめて火の番をするカイエルの後ろに立っていた。


「ええ、少しあなたと話しておきたかったし、ね」


 思わせぶりなことを口にして、セラファもカイエルのように焚き火を囲んで座り込んだ。


 それと同時に薪が大きく弾けて、火の粉が舞って空へ登っていく。セラファはその様子を無感情な目で見送り、カイエルは彼女の表情を見ていた。


 見返してみれば、昼の時には感じなかった彼女の美貌がよりはっきりと理解できた。長く銀色に輝く髪は、土埃でくすむこともなく、焚き火と月明かりだけという光源でも、透き通るような透明感と自ら光を放っているような神々しさがある。


 表情は人間味を感じさせないものの、むしろその非人間的なまでに整えられた目鼻立ちと相まって、精緻な彫刻のようですらあった。


「――あなた、残滓を狩るつもりなのね」

「あ、ああ、そうだけど」


 彼女の姿に見惚れていたので、カイエルはセラファと目が合ってしまい、心臓が脈打つのを感じる。


「なら、創造神カラド=モルスと五人の勇者たちの話は知っているでしょう」

「そりゃもう、神狩じゃなくても、それこそ誰でもそれくらいは知ってるはずだ」


 セラファの話す五人の勇者とは、カラド=モルスを討伐するために立ち上がった名も無き五人の勇者たちの話だった。


 彼らが立ち上がり、周辺諸国全てが蜂起してカラド=モルスを討滅した戦争のことを乖炫戦役と言って、この世界に居る人間なら、誰でも知っている話だった。


「あなたたちは、勇者に恨みはないの?」


 無表情なセラファの瞳がかすかに揺れた。彼女自身がその問いに恐れを抱いていた。だが、それを聞かずには居られない。そういった感情が、カイエルに伝わってきた。


「当たり前だろ。ガキはいつかは親から離れねえといけないんだ。それが乖炫戦役だったってだけだ」


 質問の意図が測りかねる中、カイエルは答える。彼女の不安な気持ちだけが彼に届いていた。


「でも、そのせいで世界には残滓があふれているでしょう」

「勇者が神を倒さなけりゃそんなことは無かった。ってか? それこそ見当違いも良いところだ」


 カラド=モルスは生け贄も貢ぎ物も何もかも要求していた。もし現在まで存在していたとすれば、残滓の被害と同等以上に搾取されていただろう。それがカイエルをはじめとする普通の人の考えだった。


「そう……なのね」


 安堵したようなセラファの言葉に、カイエルは眉を動かす。夕食での会話といい、彼女の話すことにはかすかな違和感がずっとこびりついていた。


「なあ、お前……何者なんだ?」


「えっ――?」

「今の変な質問もだが、一番は残滓を狩る動きだ。あれは数日食っていない人間の動きじゃない。なんなんだ、お前は」


 カイエルは、彼女をまっすぐ見据えて問いかける。


「私は――」


 彼女は、カイエルの視線を受けて左右に視線を逃がした。しかし、数瞬の逡巡を経た後に、唇を震わせつつ口を開く。


「もし、それを知りたいなら、知った後でも、あなたが変わらずに接してくれることを約束して」

「そんなの当然――……いや、分かった。約束する」


 冗談めかして返答しようとしたカイエルだったが、セラファの表情が真剣そのものな事に気付いて、顔を引き締めた。


「……五人の勇者のうち一人、不死の乙女と呼ばれた勇者は知っているかしら」


 静かに、なにかを思い出すかのような語り口で、セラファは話し始める。視線の先には揺れる焚き火の炎があり、彼女の頬を赤く色づかせていた。


「当然、特に人気が高いからな」


 五人の勇者の中でも、不死の乙女はその逸話も含めて多くの人々に知られている。


 ある国でカラド=モルスに対抗するため、一人の少女が人柱となった。創造主である神をも殺すため、彼女には何人もの人間が生け贄となり、彼女は不老不死となった。そしてまた、彼女は何人もの抗夫と鍛冶師の命を犠牲に作り上げた神をも殺す銀の槍をもち、カラド=モルスに対抗する他の四人の勇者と合流することになる。


 それが、伝わっている不死の乙女が生まれた伝承である。


「なら……名前は知ってる?」

「名前って――いや、学者先生なら知ってるかもだがな」


 調子を変えず、淡々と話すセラファに、カイエルは自分の記憶をたどって答える。確かに五〇〇年という時間の中で、不死の乙女は称号のみが残り、本人の名前は積もった歴史の落ち葉に埋没していた。


「そう、名前はもう伝わっていないのね」


 セラファの要領を得ない話に、カイエルは少しの苛立ちを覚え、頭を掻く。


「さっきからなんなんだ? 俺はあんたが何者なのかを聞いてるんだけどな」


 そんなカイエルに、セラファは一度強く唇を引き締めてから、その問いに答えた。その声は震えていたが、それでもはっきりと、聞き取れる声量だった。


「ずっと言ってるじゃない。私はセラファ、かつて不死の乙女と呼ばれていた者よ」

「――!?」


 瞬間、カイエルは言葉を失った。あまりに突拍子も無い彼女の言葉だったが、奇妙な点にはいくつも納得できてしまう点があった。


「カラド=モルスを討伐した五人の勇者は、その命が尽きるまで世界中に散らばった残滓を狩り続けた――そう伝わっていると思うのだけど」

「あ、ああ、それはそうだが……本当に?」


 カイエルの言葉に、セラファは首肯する。


 あまりのことに思考が停止して、カイエルは固まってしまう。今、目の前に伝説の存在が居る。そしてそれは、自分と同じように物を食べ、語らうことができる。そんな状況で、普段通り振る舞えるほど彼の心臓は強靱ではなかった。


「……それで、あなたはどうするの?」


 固まっているカイエルに、セラファは少し低い声で問いかける。それは、自分の素性を知ってしまった以上、あなたも私から離れていくのではないか。そういう意図の言葉だと、すぐに理解できた。


「あなたが残滓を倒し尽くすというのなら、お互いに頑張りましょう。そして、私は夜の間にここから居なくなるわ」


 彼女が焚き火のそばから離れようと腰を上げた瞬間、カイエルは何故彼女がずっと無表情なのかの答えを察した。


「――」

「一緒に戦おうぜ。この世の残滓を一つ残らず刈り尽くすまで」


 口角を上げ、右手を差し出して、セラファに笑いかける。


 彼女の瞳は大きく開かれ、みるみるうちに頬が紅潮していく。その色は、焚き火の暖かな光の中でもはっきりと分かるほどだった。


 彼女は多くの人と出会い、別れてきた。だからこそ、新しく人と関わることを恐れている。しかしそれと同時に、他者と関わることを切望している。別れを恐れるのと同じように、孤独で居ることが怖くて仕方ないのだ。


「な、なんで私があなたと一緒になんかっ」

「一人よりも二人、一人寂しく狩るよりも、誰かと二人の方が寂しくないって」


 笑顔を崩さずカイエルは語る。


「誰が寂しいなんて――そもそも、私は寂しいなんて思ってない! 一人で残滓を狩ってるだけで十分なんだから!」

「本当に十分だと思ってるなら、昼間狼を倒した後にでもどこかに行くことはできただろ。不死で食事が必要ないみたいだし」

「ぐっ、なっ――!」


 痛いところを突かれたのか、セラファは真っ赤な顔で歯を噛みしめた。


「あっはっはっは! じゃあ明日からよろしくな、セラファ!」


 高らかに笑い、カイエルはそう言いながらセラファの顔を見る。こいつ、こんな顔もするのか、カイエルは心の中でそう呟いた。


 反論できずに顔を真っ赤にして口をもごもご動かす彼女――その中に、もう悲哀は存在しないようだ。


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