はじめての村案内
「よし、行くぞ誠!」
ミィナは尻尾を揺らしながら、小屋の前で誠を待ち構えていた。誠は肩を回し、深く息を吸い込む。
――これからが本番だ。
この村を知れば、きっと自分が生き延びる道も見えてくる。
「頼むな、ミィナ」
「任せろ!」
ミィナの嬉しそうな声が響き、誠はアイに向かって小さく呟く。
「アイ、撮影頼む」
『はい、誠様。全方位モードで記録します』
こうして、誠の“村の初探索”が始まった。
◇◆◇
まず案内されたのは、村の中心部――例の縄を解かれた場所だ。
「ここが村長の家だな。誠も見たことあるだろ?」
「ああ……ここで目を覚ましたしな」
改めて見ると、村長宅はほかの家よりは大きい。だが誠の感覚では“ちょっと広い古民家”レベルで、贅沢さとは無縁だった。
土壁、木の柱、竹の編み戸。どれも手作り感が強い。
「村長の家ってさ……もっと豪勢なのかと思ったけど」
「はぁ?何言ってんだ。十分立派だぞ?」
ミィナが呆れたように言う。
誠は苦笑するしかない。
(そりゃ俺の世界基準で考えちゃダメか……)
アイが小声で補足してくる。
『誠様。物質文明レベルは、地球で言うと中世以前……おそらく“戦国期”付近です』
(やっぱりそれくらいか……)
「ここでは村長が全部の管理してる。貨幣も、外との取引も、全部だ」
「貨幣って言っても、この村では使わねぇだろ?」
誠の言葉にミィナは頷いた。
「そうだな。村の中じゃ物々交換が基本だ。
でも外から商人が来る時だけは貨幣が必要になる。だから村長の家にまとめて貯めておくんだ」
「なるほどな……」
誠は内心で思う。
(貨幣はあっても村内流通なし……経済かなり原始だな……)
アイが静かに記録を続けている。
◇◆◇
村長宅を離れ、ミィナは田んぼへ向かう。
一面に広がる水田は、夕日を映して揺れていた。どこか懐かしさを覚える景色だ。
「ここらは全部田だ。秋には稲が穫れるぞ」
「あー……こういうの、じっくり見たことなかったな」
誠は正直に呟いた。
「誠の村には無かったのか?」
「いや、あったにはあったけど……」
「へぇー……少しは記憶が戻ってきたのか?」
(ドッキ!!記憶喪失設定だった!)
「まあ少しづつ。。。」
水田の横には畑も広がっていた。
根菜、豆類、薬草らしきものも見える。土の質は悪くなさそうだ。
アイの声が入る。
『誠様、土壌は適度に肥えているようです。
ただし水路の整備が甘く、農業効率は低いと思われます』
(まぁ、素人目でも見て分かるよなこれは……でも如何改善するかはまでは解らん。。。)
◇◆◇
次に家畜小屋へ向かう。
「ここが家畜小屋だ。牛と豚と鶏。まあ全部食料だな」
誠はふと驚く。
「……見た目、ほぼ現代と変わらねぇな」
「へ?現代???」
「いや……まぁ……」
(品種改良とかされてないのにこれなのか? 不思議だな……)
牛はゆったり草を食べ、豚は寝そべり、鶏がバタバタ走り回っている。
家畜の世話をしている若い獣人の男たちも、誠の姿に興味津々だ。
「おーい、あれが例の“外から来た奴”か?」
「ベット作った奴だろ?マジで便利だったぞ!」
「おい誠ー!今度は俺んとこの棚も作ってくれよ!」
すでに職人扱いだ。
ミィナが笑いながら誤魔化す。
「こいつは今、村案内してるんだ!仕事の話はあとにしろ!」
「はーい!」
適当な返事だが、みんな誠に対して敵意は感じられなかった。
むしろ完全に“村の便利屋”として認識され始めている。
誠はほっと胸を撫で下ろした。
◇◆◇
村全体は、木を組んで作った簡易な柵で囲われていた。
高さは二メートルほど。
外敵――獣か盗賊かわからないが――を防ぐためらしい。
「でもこれ、壊そうと思えば簡単に壊れそうだな……」
誠がぽつりと言うと、ミィナが肩をすくめた。
「まぁ、盗賊なんて滅多に来ねぇし。獣もそこまで強くねぇから、柵があれば大体追い返せるんだよ」
「……なるほどな」
アイがそっと分析を入れてくる。
『誠様。柵の耐久性は低いです。改善案は後で提示できます』
(頼むぞ……この村、思った以上に隙だらけだ)
◇◆◇
村の外周まで案内され、村の様子を一通り見終えた頃には、太陽はすっかり傾き始めていた。
「どうだ、誠? 村のこと、多少は分かったか?」
「まぁな……予想はしてたけど、やっぱり俺の知ってるのとは全然違うな気がする様なしない様な?」
自分がこれから何をすべきか、少しずつ見えてきた気がする。
誠の頭の中でアイが告げる。
『誠様。撮影した動画の解析が完了しました。
帰宅後、改善できる項目のリストを提示します』
ミィナが誠を振り返る。
「じゃ、戻るか?」
「おう。案内ありがとうな、ミィナ」
ミィナはどこか嬉しそうに尻尾を揺らした。
「また何かあったら言えよ!誠は……まぁ、ちょっと変な奴だけど、悪い奴じゃないしな」
「変とは失礼だな」
「ははっ!」
誠もつい笑う。
――こんな風に普通に笑えるとは思っていなかった。
◇◆◇
小屋に戻ると、誠はすぐにアイへ声をかけた。
「アイ。動画の分析頼む。俺ができて……この村を改善できること、全部教えてくれ」
『承知しました、誠様。この村で生き延びるためには、“貢献”が最優先。解析結果をまとめますので、少々お待ちください』
誠は囲炉裏の前に腰を下ろし、薪をくべた。
火がぱちぱちと弾ける音が静かな夜に広がる。
村の息遣いが聞こえるような気がした。
(さぁ……俺の生き残り作戦、ここからだ)
この村を変えるための“最初の一手”を、誠は待った。




