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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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干し竹の子、春を残す作業

竹の子掘りから戻ると、作業場の前はすでに人だかりになっていた。


「おい……なんだこの量」


「今年は多いな……」


籠いっぱい、いや、籠いくつ分もの竹の子が並べられている。


「誠、これ全部どうするんだ?」


村の男が半信半疑で聞いてくる。


「今日はな……下処理だ」


「下処理?」


俺は一息ついてから説明を始めた。


「まずは皮を剥いて、茹でる。そのあと薄く切って、干す」


「……干す?」


ざわ、と空気が揺れた。


「干すって、保存するってことか?」


「竹の子を?」


この世界では、干し肉や干し魚はあっても、野菜を干す発想がほぼ無い。

当然の反応だ。


『補足します』


アイがいつもの調子で割り込む。


『水分を抜くことで腐敗を抑制し、長期保存が可能になります』


「……つまり、春の竹の子を、夏や冬にも食えるってことか?」


「そういうこと」


一瞬、沈黙。


次の瞬間――


「やるぞ!!」


「早く皮剥こう!!」


一気に動き出した。



作業は完全な分業制になった。


・皮を剥く者

・大鍋で茹でる者

・切り分ける者

・干し場を作る者


特に女性陣の手際が異様に良い。


「このくらいの厚さでいいか?」


「乾きやすいのはこっちだな」


俺が感心して見ていると、ミィナが笑った。


「誠、あんた教えるの上手いな」


「いや、俺も聞いた通りやってるだけだよ」


『正確な工程共有が行われています。成功率は高いです』


茹で上がった竹の子は、香りが違った。

えぐみが抜け、ほのかに甘い。


「……これ、もううまそうだな」


「待て待て、まだだ」


薄く切り、縄に通し、風通しの良い場所へ。


ずらりと並んだ干し竹の子が、春の光を受けて揺れる。


「おお……」


「壮観だな……」


村人たちが思わず声を漏らす。



夕方、作業が一段落した頃。


年配の女が、ぽつりと言った。


「……春のもんは、春で終わりだと思ってた」


「……だよな」


「でも、こうして残せるなら……」


その目が、少し潤んでいた。


「冬に食えるなら、どれだけ助かるか……」


俺は何も言えなかった。


ただ、胸の奥がじんわり温かくなる。


『誠様』


「ん?」


『これは保存技術の共有です。村の生活基盤に長期的な影響を与えます』


「……大げさだな」


『いえ。事実です』


夜、干し場を見回る。


風に揺れる竹の子が、かすかに音を立てていた。


春は、確かにここにある。

そして――


この春は、もう消えない。


「さて……次は、これをどう食わせるかだな」


『味噌、出汁との相性は非常に良好です』


「だろうな」


俺は笑って、干し竹の子を見上げた。


村の食卓は、確実に“前”へ進んでいる。

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