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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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春の山、竹の子の恵み

「ミィナー! おーい誠ー!」


朝の作業場に、元気な声が飛んできた。


振り向くと、籠を背負ったミィナが手を振っている。


「竹の子掘り行くぞ!」


「……竹の子?」


「そうだ! この時期にしか取れんからな!」


「あ、はい! 行きます!」


正直、俺は少し戸惑っていた。


(竹の子掘り……?)


元の世界でも名前は知ってるが、実際に掘ったことはない。

山菜取り自体、ほぼ未経験だ。



村から少し離れた竹林に入ると、地面からにょきっと尖った影がいくつも顔を出していた。


「おお……これが竹の子か」


「そうそう。柔らかいうちが一番うまいんだ」


ミィナは慣れた手つきで鍬を入れ、ぐっと掘り起こす。


「ほら、こうやってな!」


ごろん、と土から現れた竹の子は、思ったより大きい。


「へぇ……結構重いな」


「これが春のご馳走だ」


俺も見よう見まねで掘り始める。


(……なるほど、確かに楽しい)


土を掘って、何かを“見つける”感覚。

冬の工作とは違う、春らしい作業だ。



その時、アイの声が割り込んできた。


『誠様。干し竹の子の製造を推奨します』


「干し竹の子?」


『はい』


俺は鍬を止めた。


「そんなのあるのか?」


『身近な例ですと……メンマに近い存在です』


「あー……あれか!」


ラーメンに乗ってる、あのやつ。


『完全な再現は現段階では難しいですが、保存性と食の幅を大きく拡張できます』


「保存できるのは強いな……」


この世界では、季節ものは一気に取れて一気に消える。

保存できるなら、それだけで価値が跳ね上がる。


「じゃあ、竹の子はたくさん取った方がいいのか?」


『必ずしも新芽だけである必要はありません』


「え?」


『多少育ったものでも加工可能です。そのため、想定以上の量を確保できる可能性があります』


「これぐらいのか?」


『はい。加工可能です』


「誠!それは育ち過ぎたぞ!」


「いや。これに一手間かけて保存食が出来る」


「そうなのか?」


「ああ」


「ほう……それはいいな」


なるほど。

今までは“取り切れない春の恵み”だったわけだ。


竹林の中、籠はどんどん重くなっていく。


「思った以上に取れるな……」


『はい。乾燥工程に回せる量として十分です』


「春の山、侮れないな」


ミィナが笑う。


「誠は、山の恵みを“残す”方法を知ってるな」


「……まあ、教えてもらってるだけだけど」


『誠様の判断があってこそです』


「珍しくフォローが入ったな」


『事実です』


俺は苦笑しながら、籠を背負い直した。


竹の子は、春にしかない。

だが――


保存できれば、春は一年中になる。


村の食は、また一段階、広がろうとしていた。

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