広がる畑、揃う作業
田植えから数日。
苗は順調に根を張り、田んぼの水面には規則正しい緑の列が揺れていた。
「……何度見ても、揃いすぎだろ」
「まるで線を引いたみてぇだな」
村人たちは用もないのに田んぼを見に来ていた。
『生育状態は非常に良好です』
「そりゃそうだろ。間隔も深さも一定だ」
誠は満足そうに頷いた。
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その日の午後。
村の広場に、人が集まっていた。
「誠殿」
村長が声をかける。
「田んぼはあれで安心だ。だが……相談がある」
「普通の畑、ですよね?」
村長は驚いたように目を瞬かせた。
「……もう分かっておられたか」
誠は苦笑する。
「田んぼがあれだけ楽になったら、次は畑だろ」
村には、麦、豆、芋、雑穀――
田んぼ以外の畑がいくつもある。
『畑作業も、同様に効率化が可能です』
アイが即答する。
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誠は、倉庫から冬に作った木枠をいくつか持ち出した。
「これは……?」
「植え付け用の“筋付け器”だ」
等間隔に突起のついた木枠。
地面に押し当てて転がすだけで、植える位置が揃う。
『畑作において最も時間がかかるのは、間隔決めと整列です』
「だな」
誠は畑の端で、実演してみせた。
ごろ……ごろ……
土の上に、等間隔の筋が刻まれていく。
「おお……!」
「これなら迷わねぇ!」
「考えなくていいのが楽だな!」
『次に、冬に製作した“多穴植え棒”を使用します』
アイの指示で、数本の棒が配られる。
先端が複数に分かれた簡単な道具だ。
「刺して、苗を落として、戻すだけだ」
「……簡単すぎねぇか?」
「簡単でいいんだよ」
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作業は驚くほど早く進んだ。
・筋を付ける人
・苗を運ぶ人
・植える人
自然と役割が分かれ、畑が埋まっていく。
「……これ、いつもなら丸一日かかる量だぞ」
「昼前に終わっちまった……」
村人たちは、呆然としていた。
「作業負担が減ることで、畑の面積拡張が可能だ」
誠の言葉に、村長が反応する。
「……拡張?」
「今まで人手の都合で諦めてた場所も、いけるだろ」
誠は、村の外れを指差した。
「向こうの休耕地。あそこも畑にできる」
「……確かに……」
『田植え機と畑用補助具を併用すれば、作業量は従来の半分以下です』
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「……誠殿」
村長が、静かに言った。
「今年は……余るのではないか?」
「余るな」
即答だった。
「余ったらどうする?」
誠は少し考えてから言う。
「保存だ」
『食料は基盤です。余剰は次の技術を呼び込みます』
「道具も、鉄も、全部そこからだ」
村人たちは顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。
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夕方。
田んぼと畑を見渡せる小高い場所で、誠は立ち止まった。
揃った苗。
広がる畑。
忙しいが、追い詰められていない人の動き。
『誠様』
「ん?」
『この村は、今年から“作れる量”が変わりました』
「だろうな」
『次は、保存と加工です』
「分かってる。順番にな」
風が吹き、若い葉が揺れた。
この村は、もう“ギリギリで生きる村”じゃない。
誠はそう確信していた。




