炭の窯出し、そして焼き物へ
三日間の沈黙を続けていた窯が、ようやく冷え切った。
表面に触れても熱をほとんど感じない。
いよいよ炭の取り出しだ。
「さて……上手くいってるといいが」
俺が窯口の土を崩すと、村人たちがどっと集まってくる。
ごそっ、ごそっ……と土が剥がれるたび、内部から黒い影が見え隠れする。
そして、ついに。
「おおお……!」
最初に出てきた丸太は、芯まで真っ黒で、軽く、艶がある。
押すと「コーン」と高い音が返ってくる。
「おー! 炭だ! 完璧じゃねぇか!」
俺が声を上げると、アイも満足げに頷いた。
『成功です、誠様。均一な炭化に成功しています』
村人たちも歓声を上げた。
「すげぇ……!」「これ全部、炭なんだな!」「これだけあれば冬越えも余裕だ!」
アイが冷静に解説する。
『これを定期的に生産すれば、来冬までに充分な備蓄が可能です』
「もう次の冬の話かよ、アイ!」
『備えは早いほど良いのです』
まったく、こいつはいつも堅実すぎる。
俺は笑いながら炭を見回し、言った。
「各家に配分だな。初回分はしっかり村で使ってくれ」
「おお! ありがてぇ!」
村人たちは嬉しそうに運んでいった。
⸻
炭をすべて出し終わり、次はいよいよ焼き物だ。
「さてと。次は焼き物か!」
アイが真剣な声になる。
『誠様、一度窯の内部を撮影して状態を確認します』
「お、頼む」
内部を照らして撮影する。
「どうだ?」
『問題ございません! 内部の壁面に損傷なし。温度分布も均一でした。引き続き焼き物の準備に移行できます!』
「よし、壊れてなくてよかった……!」
村人たちが用意していた器、皿、小壺、甕が広場にずらりと並ぶ。
『では、壊さないように丁寧に配置していきましょう。器同士が触れないよう、わらを挟むと割れにくくなります』
アイの指示のもと慎重に器を重ね、並べていく。
「こりゃ緊張するな……一つでも当たったら割れちまうもんな……」
作業の手は繊細だ。そして最後の一つを置いた。
「よし……完了だ」
『では、薪を入れてください。今回も量はこの程度で十分です』
指示通り薪を組み、通気口も適切な開き具合に調整する。
アイが俺を見た。
『誠様。準備は整いました』
「じゃあ……火入れしますか!」
炎が薪に移り、ゆっくりと窯の中に赤みが広がっていく。
「どれぐらいで焼けるんだ?」
『土器の場合は……そうですね、明日の夕方には“火止め”のタイミングになります』
「また火の番か……」
『はい。ですが、今回は炭焼きよりは楽です。温度管理は半自動でできますので』
「半自動って便利すぎだろ」
そんな軽口をたたきながらも、俺は炎をじっと見つめる。
窯に火が入り、
これからこの村に“器の文化”が生まれる。
そう思うと胸が熱くなった。




