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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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半地下窯、初めての火入れ

村人総出で仕上げた半地下窯が、ついに完成した。


入口から奥へ向かって三段の階段状になった焼成室。

温度調整のための通気口が五ヵ所。

半地下構造のおかげで保温性能も高く、炭焼きにも焼き物にも使える万能窯だ。


これが本当に俺たちの領地に出来たんだと思うと、胸が熱くなる。


『では、まずは炭焼きから開始します』


アイが静かにそう告げた。


焼き物を先にすると窯内部の湿気や残り煙で不純物が付く可能性があるらしい。

最高品質の炭をつくるには、初回の火入れが特に重要だという。


『軽く薪を入れて……水分飛ばしから行きます』


窯口に細い枝をくべ、火をつける。


ぼっ……と小さな炎が上がり、煙がゆっくり吸い込まれるように奥へ流れていく。


「どうだ、アイ?」


『通気は問題ありません。上昇気流が理想的です』


「なら、本番に備えて薪を集めるか」


『はい。すでにミィナさんたちが乾燥した木材を集めてくれています』


広場には、村人たちが集めた乾いた薪がずらりと積まれていた。


ミィナが胸を張る。



午後になり、窯の水分飛ばし作業が終わった。


窯はほんのり温かく、内部の湿気はほとんど抜けている。


ここからが本番だ。


「さて……いよいよ木材を詰めるぞ」


『はい。炭焼きは“詰め方”で七割決まると言われています。慎重にいきましょう』


指示で村人たちが動き出す。


太い木材を後ろから順番に、倒れないようぎっしり詰めていく。

木と木の間に不自然な隙間が出来ないよう、丸太の太さを見て並びを調整しながら詰め込む。


「これ……ギュウギュウに入れて大丈夫なんだな?」


『逆に隙間が大きいと、燃えすぎて灰になってしまいます。熱は必要ですが“酸素を極力入れない”のが炭焼きの基本です』


「なるほど」


最後の丸太を詰め終わり、アイが小さく息を吐いた。


『これで準備完了です。いよいよ火入れですね』


俺は窯口に視線を向けた。


ここに火を入れたら、もう途中で止めることは出来ない。


三日三晩、温度調整と通気口管理に気を配り続けて、最適なタイミングで窯を完全密閉しなければならない。


失敗すれば——全部ただの灰か、生木のままのゴミになる。


「さて……」


俺は薪を握りしめた。


「始めるか!」



火入れの最初は弱火。


ゆっくりと内部の木材に熱を伝え、

完全に火が付く前に“蒸し焼き状態”へ移行させる。


俺とアイ、そして数名の村人が交代で火加減を見続けた。


煙が濃くなり、やがて色が変わっていく。


白い煙は水分。

青い煙は樹脂成分。

それを超えて、やや甘い匂いの黒煙になったら——


「アイ! これ、そろそろじゃないか?」


『はい! ここからが本番です! 薪を強火にして一気に温度を上げ、木材に完全に火を通す直前で止めます!』


アイの声に村人たちが慌ただしく動き、薪を追加し、空気量を調整する。


ごうっ……!


窯の奥が赤く染まる。


炎が木材に直接触れる前に、急いで各所の通気口を絞っていく。


「ここ、もっと閉めてもいいですか!?」


「任せろ、見せてみろ!」


俺は通気口を半分ほど閉じ、炎の勢いを確認する。


アイが頷いた。


『よし……! これで“炭化モード”に入りました』


窯の炎が見えなくなり、内部の温度だけがじんわりと上がり続ける。


外からはただ煙だけが立ち昇る。


その煙の色や匂いで、炭の出来具合を判断するのだ。


ミィナが不安そうに尋ねた。


「これ、本当に炭になってるんですか?」


「なる。……はずだ」


「はず!?」


「まあ、初回は経験がないからな……」


「えええ……!」


アイが落ち着いた声で言う。


『大丈夫です。数値は安定しています。このままなら……二、三日で最高品質の炭になります』


ミィナが胸に手を当てる。


「よ、良かったぁ……」



煙の色が明らかに変わった。


アイが俺を呼ぶ。


『いよいよ“密閉”のタイミングです』


「……ついに来たか」


窯の命運を決める最重要工程。


絶妙なタイミングで通気口を全部塞ぎ、窯口に土を塗り固める。


これに失敗すると——炭が軽くなりすぎたり、黒く固まりきらなかったりする。


俺と村人全員が息を飲む中、

アイが静かに告げた。


『今です。閉じてください』


俺は一気に土を押し込み、通気口を塞いだ。


次に窯口も完全に土で塗り固める。


——これで、窯は沈黙した。


あとはゆっくり冷えるのを待つだけだ。


最高の炭が出来るかどうかは、窯の中だけが知っている。


そして村人たちは、その傍らで乾かしていた焼き物を並べ始めた。


「炭が終わったら……これ、焼いてくださいね!」


「まあ、それは窯の出来次第だな……ふふ」


こうして俺たちの半地下窯は、まず炭焼きの炎を孕んで静かに息づき始めた。


焼き物はその後のお楽しみだ。

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