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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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村人たちは器づくり

作業を始めて数時間。斜面を削り、半地下スペースを掘り下げ、土を外に運び出す。シャベルを振ると、土の湿り具合で確かに窯づくりに適しているのが分かる。


「ふー……だいぶ形になったな」


階段状に整えた土壁を見上げていると――。


「おーい、誠! なんか大掛かりなことしてんのか!?」


村の男たちが数人、ぞろぞろやってきた。


あ、やっぱり来たな。こういう大きな穴を掘ってると絶対見に来るよな。


「誠どの、これは……何を作っておる?」


「窯だよ。土器を焼いたり、炭を作ったりする半地下式のやつ」


「土器……!?」「炭……!?」「また難しいもんを……」


全員、ぽかんと口を開けてる。


まあ無理もない。この世界、炭はあるが“量産する文化”までは整ってない。土器も“買う物”であって、村で大量に焼く発想はないんだろう。


「まあ見ててくれよ。完成したら村にもいくつか渡すから」


「そ、そんな事まで……!」


「誠どの、本気で村を豊かにしようとしておられるのか……」


いや、俺は生きるためにやってるだけなんだが……村人の方が勝手に感動してる。


「手伝おう!」「そうだそうだ! こんなめでてぇ事、放っておけん!」


あれよあれよという間に、十人以上の男衆と数名の女衆まで集まり、勝手に作業が始まった。


土を運ぶ者

土を踏み固める者

枝を集めてくる者

粘土質の土を集める者


実に良い連携だ。村ってすげぇな。


アイが小さく呟く。


「誠様、これは……生産力が大幅に向上する未来が見えます。村人の協力体制がこれほど強いとは予想外でした」


「まあ、なんか嬉しそうにやってるしな。やり方教えれば勝手に覚えてくれるだろ」


「はい。これなら将来的に窯の増設も可能です」


俺らが話していると、別の村人が声を上げた。


「誠殿! 型として使えそうな石を拾ってきたが、使うか!?」


「おー、助かる! 置いといてくれ!」


なんか本格的な作業現場みたいだ。


◇◇◇


夕方には、窯の本体部分がほぼ掘り終わり、半地下階段も成形が終わった。


「誠! あとは明日、土を練って壁を固めれば形になるな!」


「炭も焼けるんだろ? これで冬の暖房も安泰じゃねぇか!」


「ほんと、誠どのはすげぇよ!」


みんな興奮気味だ。


村の未来が目に見えて変わっていくのが分かるからだろう。


アイも満足げに言った。


「誠様。あと二日で窯は完成する見込みです。初回の試運転は……木炭生産を推奨します」


「よし、そのあとに食器と保存壺を大量生産だな」


「はい。これで村の生活基盤が確立していきます」


夕日が斜面を赤く染めていた。

窯の影が長く伸び、その姿はまるで“村の心臓部が生まれた”ように見えた。


作業を終えて片付けをしていると、アイが急に震えた。

例の“バイブで知らせる”やつだ。


「誠様。窯の完成と同時に、次の工程に入る準備を推奨します」


「次? 何かあったか?」


『はい。窯で焼成する前の段階――“成形と乾燥”です。そこで、水車に取り付けたろくろの活用をお勧めします』


「あー……冬の終わり頃に作ったやつか!」


水車の軸を利用して作った、簡易ろくろ。

とはいえ手回しよりもはるかに速く均一に回る革命装置だ。


「村人の皆さんに、使い方を教えてください。これで容器の大量生産が可能になります」


確かに、窯が完成しても、形を作らなきゃ何も焼けない。

そして焼く前には最低でも一週間の乾燥が必要だ。


「そっか。炭を焼いている間に、形づくりと乾燥を進めとくわけか」


「はい。それが最も効率的です」


俺が頷いていると、早速近くにいた村の男衆が会話を聞きつけた。


「おい誠。なんだって? ろくろ……ってのは何だ?」


「水車につけた回る台だよ。土を乗せて回しながら形を作るんだ」


「土器って……あの器か?」「形を作るのに使うのか?」


興味津々で近づいてくる村人たち。

よし、ちょうどいい。


「明日、窯の壁を固めた後に説明するよ。乾燥の時間ってのが必要だから、早い方がいいしな」


「乾燥……?」


「そう。焼く前にしっかり乾かさないと割れるんだよ」


「ほほぉ……なるほど……」


みんな真剣だ。食い入るように聞いてくる。


『誠様。村人たちは器づくりが初めてです。最初は小皿や湯飲みサイズの簡単な物から始めるのが良いでしょう』


「了解。そんじゃ明日はろくろ講習会だな」


『はい。窯が炭焼きに入っている三日間で、村全体の一年分の土器が作れると思います』


「三日で!? そんなにかよ」


『はい。回転効率が段違いですので』


それを聞いていた村人たちは、なぜかどよめいた。


「お、おい……誠殿……それって……」「村の器が全部揃うってことか?」


「ああ、理屈上はそうなるな」


その瞬間、どっと歓声が上がった。


「すっげぇええええ!!」


「なんてこった……!」


「壺や甕も作れるのか!?」


「作れるよ。大きさに限界はあるけどな」


また歓声。なんかこっちが照れるくらいの大騒ぎだ。


アイが俺に向けて小声で言う。


『誠様。村人たちの熱量が非常に高いです。この機会に“共同作業場”として認識させることを推奨します』


「共同作業場、ね。窯を中心に、みんなで作る場か」


『はい。村の文化形成にもつながります』


確かに、窯のある暮らしって、村の象徴みたいなもんだしな。


ひと段落したところで、俺はみんなに向き直る。


「じゃあ、明日は窯づくりの仕上げと、ろくろの使い方の説明をするよ。形を作るのは早いほどいい。乾燥に時間がかかるからな」


「了解したぜ誠!!」


「明日も来るからな!!」


村人たちは元気よく散っていった。

夕日で赤く染まった半地下窯の影が、さっきよりさらに大きく見えた。


まるで、この村の未来が膨らんでいくのを象徴しているかのように。

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