半地下式の窯を造ろう
「誠様。緩やかな傾斜地への“半地下式窯”の建築を開始することを推奨します!」
朝の作業に向けて鍬を持ち上げたところで、アイの声が響いた。
「おー……冬に言ってたやつか?」
『はい。焼き物の品質向上、また炭の効率的な生成にも寄与します』
誠は鍬を肩に担ぎながら、ゆっくりと外を見回した。
雪解けが進み、地面は柔らかい。今なら土木作業もしやすい。
「よし。開拓は村の連中に任せて……先に場所探しだな」
『賛成します』
誠は川沿いの道を抜け、森の縁へ向かった。
⸻
「で、どの辺がいいんだ?」
『あちらです。誠様の小屋からおよそ50メートル先に、適度な斜面があります』
アイが示した方向へ進むと、雪の溶けた斜面が現れた。
傾斜は緩やかで、直射日光が長く当たる位置だ。
「うん、悪くなさそうだな。崩れも少ないし」
『半地下式窯は、斜面を利用することで熱効率を高められます。地面の温度も安定しやすく、煙の流れも調整しやすいです』
「なるほど……で、窯ってどんな形にするんだ?」
誠の問いに、アイは投影図を頭の中に描くように説明を始めた。
『全体像はこのようになります』
誠の視界に、アイがイメージとして描く構造が重なる。
斜面に沿って、三段の階段状の構造。
半分ほど地中に埋め込んで作るタイプで、熱が逃げにくい設計になっている。
煙道は上へ抜け、熱は段階的に奥へ溜まる。
「おー……思ったより本格的じゃん。階段状にするのか?」
『はい。三段で十分です。段数を増やすと施工が大変になりますので』
誠は斜面にしゃがみ込んで、地面を手で掘って確かめた。
「土質も悪くないな。固すぎず、柔らかすぎず……掘りやすい」
『良質な粘土が近くで採取できます。土台の強化に使用可能です』
「粘土……焼き物もそれで作れるな」
アイは淡々と告げる。
『この窯では、一度におよそ六十個の焼き物が可能です。大きさにもよりますが』
「六十!? 今の原始的なやつの十倍以上だぞ?」
『はい。焼成温度が安定するため、耐久性も向上します。壊れにくい器は、村の作業効率を上げます』
誠は少し感動した。
(焼き物ひとつで、生活って変わるんだよな……)
⸻
「で、この窯……炭も作れるのか?」
『はい。まず炭焼きを推奨します。完成後は、内部に専用の塞ぎ板を設置し、空気流入を制限することで炭を生成できます』
「ってことは……焼き物用の“試運転”も兼ねるわけか」
『その通りです。火の通り方、煙の流れ、土壁の収縮状況を確認した上で焼き物へ移行するのが理想です』
誠は小さく息を吸い、大きくうなずいた。
「よし。じゃあ早速、造りますか!」
『建設手順を表示します』
アイが次々に手順を読み上げる。
・斜面を三段に掘る
・最下段に火床を作る
・段ごとに締まった粘土で壁を形成
・煙道と上部の排気口を設計
・側面の補強に丸太を使用
・地中部分は崩落防止のために格子状支柱を入れる
「全部やるのはかなりの手間だな……」
『ですが、誠様ならできます。冬の間に建造した設備と比べれば、作業量は五十%以下です』
「そこ比較するのやめろ。冬は地獄だったんだぞ?」
『事実を述べています』
誠は苦笑しながら鍬を振りかざした。
「よし、まずは掘るか!」
ザクッ。
春の柔らかい地面に鍬が沈む。
冬地獄の硬い凍土とは大違いだ。
誠は額の汗をぬぐいながら、斜面の土を掘り下げていった。
『段差を均等にしてください。幅は一メートルほどが望ましいです』
「了解」
ザクッ、ザクッ。
土の香りと春の光が混じる中、誠の作業は着々と進んでいく。
この窯が完成すれば――
村は炭を安定供給でき、陶器は丈夫に、生活の幅は大きく広がる。
それが誠自身の手で造られるというのが、何より誇らしい。
「……いいね、春って」
『はい。作業効率が冬比で三倍になっています』
「だから数字やめろって」
誠は笑いながら、再び土を掘り始めた。
⸻
窯の建設は、春の陽気とともに本格的に動き始めた。




