表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/57

獲れすぎる恵みと資源になる命

「……いや、これは流石に、獲れすぎだろ……」


誠は、村の広場に並べられた獲物の数を見て、思わず遠い目になっていた。


鹿、鹿、猪、鹿。

その横には川魚が籠いっぱい。しかもまだ運び込まれている最中だ。


「罠、便利すぎるだろ……」


誰に言うでもなく、誠はぽつりと呟いた。


罠の構造を教えてから、村人たちは一気に動いた。

森の中、獣道、水飲み場の近く、川沿い――考えうる限りの場所に次々と設置。


結果。


「毎日、二頭三頭は普通に獲れるようになっちまったな」


「昨日なんて四頭だぞ」


男たちは誇らしげだが――


「ちょっとあんたたち!!」

「処理が間に合わないのよ!!」


怒鳴り声を上げているのは、女たちの方だった。


解体、燻製、干し肉、塩漬け、脂の処理。

人手がいくらあっても、追いつかない。


ミィナも腕を組んで、少し疲れた顔で誠を見る。


「誠……これは嬉しい悲鳴なんだけど……正直、限界」


「……だよな」


誠は苦笑した。


「でも、これで肉は完全に安定供給だな。罠なら季節も問わないし」


『はい。極めて安定した動物性タンパク源の確保に成功しています』


アイの分析は淡々としているが、内容はとんでもない。


「もう“狩りに行く”って感覚じゃないな……“回収”だ」


村の食事情は、確実に一段階上へと進んでいた。



魚のほうも、同じだった。


竹で編んだ魚罠は、水路と川の合流地点に仕掛けられている。


「誠、また満杯だぞ」

「魚が詰まって逃げられなくなってる」


籠を引き上げると、ぴちぴちと跳ねる魚が溢れ出した。


「……これ、毎日これだと、保存しきれないな」


『燻製、干物、塩漬けにより対応可能です』


「……また女たちに怒られるやつだな」


実際、その日の夜。


「もう手が足りないって言ってるでしょ!」

「嬉しいけど、嬉しすぎるのよ!!」


そんな声が、あちこちから飛んでいた。



だが、獲れすぎたことで、本当の意味で次の段階へ進むことになった。


――皮・骨・脂の本格資源化である。


まず、皮。


塩漬けにされた猪皮と鹿皮が、ずらりと吊るされていく。


「臭ぇ……」

「でも、これが革になるんだろ?」


『油なめしは成功率が高いです。失敗しても再加工可能』


誠の指示で、脂を溶かし、皮に擦り込む工程が始まった。


「こんな手間かけるのか……」

「でも、これで冬の防寒着が作れるなら安いもんだ」


女たちの目も、次第に本気になっていった。


次に、骨。


洗われ、乾燥され、硬いものは削られていく。


「針にできるぞ」

「これ、魚の釣り針にもなるな」

「削って留め具にも使えるじゃないか」


骨が、ただの“残骸”から“道具の材料”に変わっていく。


そして、脂。


「これ、灯りに使えるぞ」

「水を弾くから、革の防水にもなる」


夜の明かりが、少しずつ明るくなっていく。



誠は、その光景を少し離れた場所から眺めていた。


「……完全に“狩りの村”から“加工の村”に変わりつつあるな」


『はい。一次生産から二次加工へ移行しています』


「……言葉にすると、すげぇな」


誠は思わず苦笑した。


罠を作っただけ。

魚籠を沈めただけ。

それだけのはずなのに。


肉は保存され、皮は服に変わり、骨は道具に変わり、脂は灯りになる。


“命”が、何ひとつ無駄にならずに、村の中で循環し始めていた。



その夜、ミィナが小屋を訪ねてきた。


「誠……正直、最初は変な奴だと思ってた」


「……だろうな」


「でも今は――」


ミィナは少し照れながら続けた。


「誠が村に来てから、“足りない”って言葉、ほとんど聞かなくなった」


誠は、言葉に詰まった。


「……それは、アイのおかげだ」


『いいえ。実行したのは誠様です』


小さく表示された文字が、静かに光る。


外では、今日も燻製の煙が上がっている。

魚籠が揺れ、革が風に揺れ、骨が削られている。


そして村は、確実に――

“生きるための強さ”を、手に入れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ