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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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26/57

獣罠の朝と、想定外の獲物

翌朝。


誠が目を覚ましたのは、外がまだ白みきらない時間だった。

暖炉の残り火が、ほのかに部屋を照らしている。


「……早起きしちまったな」


だが理由ははっきりしていた。

昨日仕掛けた獣罠――あれが、気になって仕方がなかった。


『外気温、低下中。積雪は昨晩より二割増加しています』


「つまり……足跡は見やすいな」


『はい』


誠は厚手の上着を羽織り、外へ出た。


吐く息は白く、足元の雪はきし、と音を立てる。

村のあちこちの家からも、同じように人が出てきていた。


「誠、今から見に行くところか?」


「はい。皆さんも?」


「当たり前だろ。初めての罠だぞ」


数人の男たちと連れ立って、昨日罠を仕掛けた獣道へ向かう。


道中、雪の上に新しい足跡が点々と残っていた。


「……おい、これ」


「鹿だな。しかも複数だ」


誠の胸が、どくりと高鳴る。


「まさか……」


最初の“くくり罠”を仕掛けた場所に着くと、皆が同時に足を止めた。


「………………」


「……かかってる」


罠の先で、鹿が一頭、横倒しになって動いていた。

足に輪がしっかりと絡まり、逃げられなくなっている。


「……本当に、かかった……」


誠は思わず、呆然と呟いた。


「すげぇ……」

「昨日教わっただけだぞ……」


男たちは興奮しながらも、すぐに仕留めの準備に入る。


誠は一歩引いた位置で、その様子を見ていた。


『人道的処理が行われています。精神的負担は軽度と推測』


「……正直、ちょっと怖いけどな」


『当然の反応です』


程なくして、鹿は静かに動かなくなった。


「……成功だな」


誰かがそう言うと、全員がほっと息をついた。


「これで、肉が安定して手に入るな」

「燻製も、干し肉も、もっと作れるぞ」


誠は、その輪の中で深く頭を下げた。


「皆さん、ありがとうございました。俺一人じゃ無理でした」


「何言ってんだ。誠がやり方を教えてくれたから出来たんだ」


そう言って笑われ、誠は少し照れた。



次は、落とし穴の確認だった。


「……こっちも、足跡が多いな」


落とし穴の周辺には、雪が不自然に乱れている。


「おい……これ……」


慎重に雪を崩すと、下から低い唸り声が聞こえた。


「……生きてるぞ」


「……え?」


中を覗いた瞬間、全員が凍りついた。


「……猪だ」


「しかも……でかい……!」


穴の底で、巨大な猪が牙を剥いて暴れている。


誠の背筋に、ぞわっと冷たいものが走った。


「……これ、想定外じゃないですか?」


『明らかに想定外です。危険度、急上昇』


「だよな!?」


猪は落とし穴の中で暴れ、雪と土が崩れ落ちる。


「このままじゃ、飛び出してくるぞ!」


村の男たちの表情も、一気に引き締まった。


「……どうする」

「この規模は、数人じゃ無理だ」


「村に知らせるしかない!」


一人が全力で村へ走り出す。


「誠、お前は下がってろ!」


「はい……!」


誠は言われるがまま、距離を取った。


『正しい判断です』


しばらくすると、村から数十人規模の男たちが、槍や縄を手に集まってきた。


村長の姿もある。


「……落とし穴に猪が入った、と聞いたが……本当だったか」


「はい……俺の罠で……」


村長は一瞬だけ誠を見て、すぐに猪へと視線を戻した。


「誠、これは責めん。だが、このまま放置も出来ん」


「……すみません」


「謝るな。猪は村にとっても脅威だ。仕留められれば、むしろ助かる」


男たちは周囲を囲み、慎重に縄を回していく。


激しい格闘の末――

猪は、ついに動かなくなった。


「……終わった……」


誰かがそう呟いた瞬間、全体にどっと疲労が広がった。


「……すげぇ……」

「鹿どころじゃなかったな……」


誠は、雪の上に座り込んだ。


「……さすがに、心臓に悪い……」


『命のやり取りを伴う技術は、必ず危険を内包します』


「……だな」



村へ戻ると、すぐに解体と保存作業が始まった。


鹿、そして猪。

肉の量は、これまでとは比べ物にならない。


「これだけあれば、冬はかなり持つぞ」

「燻製も、干し肉も、当分作り続けだな」


村の女たちも総出で、処理に取りかかっている。


ミィナが誠の所へ駆け寄ってきた。


「誠! 聞いたよ、猪まで捕まったって!」


「……正直、狙ってはなかった」


「でもすごいよ! 罠、ほんとに村を変えてる!」


その言葉に、誠は少し胸が熱くなった。


「……魚に、鹿に、猪に……」


『動物性タンパク源の安定確保に成功しました』


「……次は、何だ?」


『次の課題は“保存と流通”になります』


誠は空を見上げた。


冬の空は、どこまでも高く、澄んでいた。


「……やる事、尽きねぇな」


だが、その声には、もう不安よりも前向きな響きが混じっていた。

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