差し入れと最初の罠
昼前、小屋の扉が軽く叩かれた。
「誠ー、起きてるか?」
聞き覚えのある声に、誠は工具を置いて立ち上がる。
「はいはい、起きてますよー」
扉を開けると、村の男が二人、木箱を抱えて立っていた。
中から、ほわっと湯気と、食欲を刺激する肉の匂いが漂ってくる。
「さっきの鹿肉、少しだが差し入れだ」
「おお……!」
覗き込むと、しっかり焼かれた赤身の肉が、豪快に盛られている。
「助かります……正直、肉は久しぶりで」
「残りは全部、燻して干し肉にする。出来たらまた分けてやるからな」
「ほんとですか!? ありがたすぎる……!」
男たちは笑いながら去っていった。
誠は早速暖炉に火を足し、肉を温め直す。
「……よし」
一口かじると、噛み締めるほどに肉汁と旨味が広がった。
「……生きてるって感じするな」
『高タンパク、高エネルギー。生存効率が向上しています』
「はいはい、実感してますよ」
食事が終わる頃、誠は板を引っ張り出した。
「さて……せっかく差し入れ貰ったんだ。罠の説明、ちゃんとしてやらないとな」
『協力者の存在は成功率を大きく高めます』
「わかってるって」
午後になると、村の男たちが数人、興味津々の顔で集まってきた。
「誠、例の罠ってやつ、見せてくれるって話だったな」
「はい。難しくないんで、皆でも作れます」
誠は木板に描いた簡単な図を見せる。
「これは“くくり罠”。獣が足を入れると、輪が締まる仕組みです」
「ほう……」
「こっちは“落とし穴”。雪の下に穴を掘って、枝と土で塞ぐだけ」
男たちは顔を見合わせて、どよめいた。
「……こんなんで本当に捕まるのか?」
「理屈の上では、確実に」
『罠の成功率は設置場所で決まります』
アイが先程言った助言を、そのまま口にする。
「獣道に置けば、ほぼ確実にかかります」
しばらく沈黙の後、誰かがぽつりと言った。
「……やってみるか」
「だな。山任せより、よっぽど安定しそうだ」
そうして、罠の材料集めがその場で始まった。
ロープ代わりの丈夫な蔓、支点になる枝、重り用の石。
「思ったより、揃うもんだな……」
「この辺、何でも揃うぞ」
男たちは手際がいい。
誠が説明すると、あっという間に試作品が形になっていく。
「……俺の出番、あんまり無くない?」
『はい。村人の器用さは想定以上です』
「だよなぁ……」
それでも設置場所の相談だけは、誠と一緒に決めた。
「獣道はここだ。雪で足跡が残りやすい」
「なら、この辺にくくり罠を」
数基の罠が、夕方までに仕掛け終わった。
「さて……後は、結果待ちだな」
「うまく行けば、明日の朝には何か掛かってるかもしれんぞ」
小屋の中では、魚罠の製作が着々と進んでいた。
「……思ったより編むの大変だな、これ」
誠は竹を細く割り、格子状に組んでいく。
『入口は逆円錐状にしてください』
「了解……っと」
どうにか形が整い、筒状の籠が完成した。
「……おお、それっぽいじゃん」
『機能面に問題はありません』
「よし、じゃあ実戦投入だ」
夕方、誠は魚罠を抱えて水路へ向かった。
雪解け水で水量は多く、流れも安定している。
「この辺……流れが緩くて、魚が溜まりそうだな」
『最適です』
誠は罠の中に、餌代わりの穀物の屑を少し入れ、川底に固定した。
「……沈んだな」
籠はゆっくりと水に沈み、流れの中でわずかに揺れている。
「これで……入るのか?」
『数時間以内に成果が出る可能性があります』
「ほんとかよ……」
少し不安になりながらも、誠はその場を後にした。
⸻
夜。
暖炉の前で板を削りながら、誠は何度も外の罠のことを考えていた。
「……獣、かかるかな」
『確率は五分以上です』
「五分って、絶妙に不安になる数字だな」
その時、また扉が叩かれた。
「誠! ちょっと来い!」
「え、今ですか?」
外へ出ると、魚罠を仕掛けた水路の方から、松明の明かりが揺れている。
「……もしかして」
期待と不安が一気に膨らんだ。
水路へ着くと、男たちが興奮気味に声を上げていた。
「おい、入ってるぞ……!」
「……え?」
誠が駆け寄って見ると、籠の中で銀色の影が跳ねている。
「……入ってる!? 本当に入ってる!!」
魚は三匹。
どれも手のひらを超える大きさだった。
「初回でこれは……」
『成功と判定します』
「大成功だろ、これ!!」
男たちも大騒ぎだ。
「すげぇな誠!」
「置いといただけで魚が捕れるとか反則だろ!」
誠は、少し照れたように頭をかいた。
「……いや、これ、俺がすごいっていうか……」
『原理の勝利です』
「それ言っちゃう?」
それでも、村に新しい“獲り方”が加わった瞬間だった。
「……明日の朝、獣の罠も確認だな」
魚の成功で、誠の期待は一気に膨らんでいた。




