表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/57

冬の見回りと村の未来図

冬の間、小屋の扉を叩く音は決して珍しくなかった。


コン、コン――。


「誠、生きてるかー?」


扉の向こうから聞こえるのは、聞き覚えのある村人の声だ。


「生きてる、生きてるって!」


誠が笑いながら返すと、


「ならよし! じゃあな!」


そう言って足音が遠ざかっていく。


最初は少し警戒していた。

監視か? それとも探りか?――と。

だが、何度も同じやり取りが続くうちに、誠はようやく気付いた。


「……これ、普通に心配してくれてるだけなんだよな」


この村では、冬を越せるかどうかは死活問題だ。

病気、寒さ、食糧不足――少しの油断で人は簡単に消える。


「“あいつは今年の冬、大丈夫か?”って、ただそれだけなんだろうな」


疑いではなく、心配。


それが分かった時、誠の胸の奥がじんわりと温かくなった。


「……悪くない村に来たもんだ」


誠は暖炉の前に腰を下ろし、スマホを取り出す。


「アイ、ちょっといいか?」


『はい、誠様』


「焼き窯の件はだいたい理解した。春になったら作る方向で問題ないな?」


『はい。現状の資材と人員で十分可能です』


「でさ……それ以外に、今後の“ざっくりした方向性”って見えるか?」


アイの画面が静かに切り替わる。


『仮定の話になりますが――』


その前置きが来る時は、大抵、少し大きな話になる。


『簡易農機具の導入によって、作業効率はすでに大幅に向上しています。その結果、春以降は新規水田の開発速度がさらに上昇する見込みです』


「まあ、それはそうだよな」


『既存の水田は、すでに水路整備と動力脱穀によって収穫量の増加が確定的です。加えて、新規水田分は純増となります』


誠は無意識に唾を飲み込んだ。


「……つまり?」


『食料生産量は、来年さらに跳ね上がる可能性が高いということです』


「……すげぇな」


数字で聞かずとも、その意味ははっきり分かる。

この世界に来てから、誠は嫌というほど学んだ。

食料は、そのまま生存率だ。

余剰は、そのまま余裕であり、発展の種になる。


『食の安定化が進めば、労働力に余裕が生まれます。その余剰労力は、新たな開発へと回されるでしょう』


「……発展、か」


『生活基盤が安定すれば、次の段階へ進めます。住居の改良、衣服の質の向上、道具の高性能化、交易の可能性――』


「おいおい、そんなとこまで行くのかよ」


誠は苦笑した。


最初は生き延びるだけで必死だった。

それが今では、村の未来の話をしている。


『ただし――』


アイの表示が少し暗くなる。


『一年分の実測データがありません。気候・天候・作柄・病害・外的要因など、不確定要素が多すぎます』


「……つまり、まだ何とも言えないってことか」


『はい。現時点では“可能性”の域を出ません』


「だよな」


誠はスマホをそっと伏せた。


「まあ、いきなり世界を変えようなんて思ってないしな」


暖炉の火が、ぱちりと弾ける。


「まずはこの村だ。俺は、この村で生き残れりゃいい」


『それが最も現実的です』


「……だろ?」


その時、また扉が叩かれた。


「誠、いるか?」


今度はミィナの声だった。


「いるぞー」


扉を開けると、ミィナが小さな袋を抱えて立っていた。


「干し柿、少し出来たから持ってきた」


「あ、もう出来たか」


「まだ試作だけどね」


ミィナは笑いながら袋を渡してくる。


「……それとさ」


「ん?」


「みんな、誠がちゃんと飯食って、暖かくしてるか気にしてるよ」


「……そうか」


「この村、そういうとこだから」


そう言って、ミィナは少し照れたように視線を逸らした。


「まあ、変な奴が死なれても困るし?」


「言い方!」


二人で小さく笑う。


ミィナが帰ったあと、誠は干し柿を一つ手に取った。


「……アイ」


『はい』


「来年、この村――どうなると思う?」


少し間があってから、アイは答えた。


『誠様の関与によって、この村は“変わり始めています”』


「……そっか」


その言葉で、誠には十分だった。


外は静かに雪が降り続いている。

だがこの冬は、停滞ではなく――助走なのだと、誠は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ