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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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二つ目の水車と、広がる水田の可能性

数日間続いた秋の祭りが終わると、村全体が切り替わったように静けさを取り戻した。

だが、それは決して寂しさではなく、冬に備えるための“集中の静けさ”だった。


そして――ついに、水車小屋の建設が始まった。


「誠、木材ここに置くぞ!」


「おう、助かる!」


朝から男手が次々と集まり、丸太を運び、杭を打ち、土台を固める作業が、見事な連携で進んでいく。

この村の男たちは決して多くはないが、一人ひとりが驚くほど動きが早く、そして正確だった。


(やっぱり器用なんだよな……ここの村人たち)


以前、暖炉を作った時に気づかされた職人気質。

誠が作ったものより、後から作られた村の暖炉のほうが綺麗で、構造まで改良されていたのだから。


「誠様、進捗は順調です」


アイが袖の中で小さく囁く。


(そう見えるな)


『はい。そして……提案があります』


(……また何かか?)


『水車、二機目も同時に建設してみてはいかがでしょう?』


(え? 同時に?)


『はい。現在、人手が非常に多い状態です。

 この勢いなら、基礎工事は一機分の時間で二機終わります。』


(まあ……できる人が多いのは確かだけど)


『さらに、水車が二つあれば “きね上下タイプ”と “引臼タイプ” を同時稼働できます。

 効率は最低でも二倍。村の負担は大幅に軽減されます』


アイの画面に、簡易的な図が表示される。


一つは縦に杵を上下させる「唐臼からうす」型。

もう一つは水車の力で石臼を回転させる「引き臼」型だ。


『ちなみに、添水唐臼タイプは既に複数稼働しています。

 ですので、今回の建設は “本格的な大型設備” を狙うべきかと』


(なるほどな……)


誠は周囲の作業を見渡す。


水路整備が終わったことで、男手が余裕を持って集まっている。

今こそ、最大の工事を一気に進めるチャンスだった。


「おい誠! 次の作業はどうする?」


声をかけられた誠は、少し迷ったあと、決断した。


「二機目も同時に造る! 基礎の丸太、倍の量いるから頼む!」


「二機!? まじか! よっしゃ任せろ!」


男たちは驚くどころか笑って喜び、力強く次の作業へと走っていった。


この村は、本当に頼もしい。



■ 水路整備の成果と、収穫量の増加


午後、少し落ち着いた頃に、アイが再解析を行った。


『誠様、水路整備が完了したことで、今年の収穫量は例年の1.3倍になると予測されます』


(1.3倍……? そんなに?)


『はい。特に “水の巡りが均等になった” 効果が大きいです。

 今まで水不足だった圃場にも水が届いています。』


(なら、来年はさらに広げられるかもな……)


『その件なのですが、稲の育て方を確認したいと考えています』


(あー、それはミィナに聞けばいいか)


『はい。ミィナ様の知識は、この村の一般的な稲作の基準になっていると思われます』


誠は頷き、遠くの水路を眺める。


水車建設に合わせて、水路の脇には小さな溜池も作っていた。

これは水車の勢いを保つための “調整池” として計画したものだ。


だが――


(これ、水田に水を引けるよな……)


調整池を中心に、今まで水田じゃなかった土地にも水が回せる。

つまり、村の耕作地そのものを拡大できるということだ。


ただし、それには“人手”が必要だった。


(ミィナに相談するか……)


誠は少し気が重かった。

ミィナは真面目でしっかり者だが、村人の負担になる事には慎重だ。


(でも、村の収穫が増えれば……冬がもっと楽になる)


覚悟を決め、夕方、作業が終わったミィナを呼び止めた。



■ ミィナへの相談と、村の現実


「ミィナ、ちょっと話があるんだけど……」


「ん? どうしたの誠。なんか真面目な顔してる」


ミィナは額の汗を拭きながら振り返る。


誠は、水路と溜池の位置、水田の拡張計画を簡単に説明した。


するとミィナは腕を組んで考え込む。


「……やろうと思えば、できる。でも問題は……人手だよね」


「やっぱりそこか」


「水田の整備って本当に大変なんだよ?土を均して、水路作って、田を囲って……下手したら冬前に終わらない」


誠はうなずく。


「わかってる。でも来年の収穫は絶対に増える。今よりもっと余裕のある生活ができると思うんだ」


ミィナはしばらく沈黙したあと、小さく笑った。


「誠、ほんと前向きだよね。でも……嫌いじゃないよ、そういうの」


「……じゃあ」


「村長とみんなに相談してみよ。今年、水路で助かったし……誠の案なら、みんな前向きに考えてくれると思う」


その言葉を聞いた瞬間、誠の表情が明るくなる。


「ありがとう、ミィナ!」


「ちょ、ちょっと抱きつくなってば! 汗かいてるんだから!」


ミィナは照れながら誠を軽く押し返したが、顔はどこか嬉しそうだった。


■ 二機の水車、小屋の形が見えてくる


翌日から作業はさらに加速した。


「二機目はここだ! 基礎もっと深く掘れー!」


「丸太運ぶぞー! 落とすなよ!」


誠もミィナも総出で作業に参加し、水車小屋は日に日に形を成していく。


誠は木組みの寸法を確認しながら息をつく。

この調子なら、冬が来る前に……完成できる


アイの声が聞こえた。


『誠様、計算では予定より五日早く完成する見込みです』


(最高のタイミングだな)


冷たい風が吹き、山はすでに紅葉を越えて落葉の季節。

冬の気配は目の前に迫っていた。


その中で――

誠たちの動く影だけが、未来に向かって明るく伸びていく。


水車が回る音を、村の誰もが待っていた。

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